2025年10月12日、数多くの名演を包み込んできた東京芸術劇場で『May'n 20th Anniversary Symphonic Concert 「TWENTY Around for You」』が開催された。振り返ればこの1年は「May’n Road to 20th Anniversary」と称し、20周年をいろどるライブを次々と報告してきたMay'n。彼女にとって一つの集大成となるコンサートがこの日の昼・夜公演に現れていた。記念すべき1年を全力で駆け抜け、歌い続けているMay'nの、純然たる歌声を味わえた『TWENTY Around for You』。昼公演を経て、シンガーとして積み上げた20年を渾身の力で証明してみせた夜公演を振り返る。
【写真】東京芸術劇場で『May'n 20th Anniversary Symphonic Concert 「TWENTY Around for You」』が開催されたMay'n(11枚)
開演が近づき、ステージ上にグランドフィルハーモニック東京の団員たちが次々と現れ、持ち場についていく。全員が揃ったところでチューニングを進め、終えたところで今回の音楽監督を務める大嵜慶子が現れた。ここからはピアニストとしてもコンサートに参加する彼女がピアノの前に座るとスポットライトがあたり、メロディを奏で始める。続けて管弦楽団に合図を出し、荘厳なオープニングとして「Overture」が送り出された。その演奏が終わるのを待って、下手からMay'nが登場する。右肩を見せた黒のドレス姿はステージのセンターに進み、目を閉じてその時を待つ。大嵜の指揮が重厚なイントロを引き出し、まぶたを開けたMay'nの口から英語詞が聴こえ始めた。1曲目は「Lethe - May'n ver.-」。海外で展開されたMMORPG『LINE クロスレギオン』の日本版テーマソングをMay'nが担当し、編曲を鷺巣詩郎が手がけた楽曲。原曲ではMay'nに寄せてロック色もあるアレンジとなっていたが、広大な世界を旅する作品と本コンサートの親和性を生かして大嵜は壮大さと幻想感をさらに加えたアレンジに。厳かさを増したバラード曲をMay'nが情感込めて歌い上げ、シンフォニックコンサートの幕開けにふさわしいサウンドが広がる。曲のラストにMay'nの「To you」という歌声だけがホールに響き、フィルハーモニーがその最後を巻き取った。続けて、ドラムロールを促した大嵜がピアノに就き、今度は鷺巣詩郎が作・編曲を手がけた「Jewels」で音楽の奔流を作り上げていく。ホルンなどの管楽器が雄大に音を生み出し、神々しいSAK.のコーラスが会場全体へと染み渡る中でフィニッシュを迎えたMay'n。その顔には笑顔が浮かんでいた。さらに、ハープが小舟が岸を離れるようにイントロを紡ぐと、「あなたは美しき船乗り」で弦が流れ込んでくる。May'nが『マクロスF』でシェリル・ノームとして歌った「ふなのり」だ。「汚れた血を洗う涙で」で管楽器も加わり、May'nはゆっくりと客席を見回しながらその大きな流れに歌を乗せていく。
開始早々、音楽に包まれる心地よさを十二分に感じ取った会場。May'nが「『TWENTY Around for You』へようこそ」と礼をすると、現実に引き戻された感覚になる。MCでMay'nは、9年ぶりにシンフォニックコンサートを開催できる喜びを述べつつ、オーケストラと一緒だからこそ生み出せる音楽、20周年だからこそ伝えたい想いが一人一人に届くことを願って歌うと客席に約束する。
その言葉どおり、大きな音楽にゆだねることのできる時間が続いていく。弦楽器によって厳かに始まった「愛は降る星のごとく」は前回のシンフォニックコンサートでも歌った楽曲。粒の立ったドラムロールが繰り返される中、9年という年月をしみじみと抱きしめるかのようにMay'nはファルセットと地声で高音を操る。最後にMay'nとSAK.が「Na Na Na...」を重ね、オーケストラと共に高みへと上り詰めていく時、心満たされる時間となった。May'nがライブでコーラスを伴うことはそれほど多くない。それゆえの新線もありつつ、二人がかりという精鋭的な歌声は聴衆を瞬く間に魅了していた。ピアノから始められた「LOVE,Close to me」ではMay'nによる「愛を知ったの」という歌詞が耳に染み入り、「ダイアモンド クレバス」では絞り出すようなロングトーンに心震わせられ、次々と押し寄せる音楽に体を預けていた。「ダイアモンド クレバス」については次のMCで「1日に2回歌う曲じゃないなと思います」と笑いながら始めた話の中で、「喉の問題ではなく、心の体力がめちゃめちゃ必要」「終わるとすごい汗が出てくる」曲だが昼にはあまり感じたことのない「寂しいな」「なんで?」という感覚を覚え、その上で夜は「それでも幸せだな」と思えた、と。今まで数えきれないほど歌ってきたにも関わらず、2回公演だからこそ得られた「ダイアモンド クレバス」、と教えてくれた。
次のターンでは、「いつ歌ったか覚えていないくらい久しぶり」という曲を織り込んだMay'n。まずは「SPIRIT」を投入する。昼公演では「ゼロ分のゼロ」だったが、この夜公演ではコンサートマスター・執行恒宏によるバイオリンソロが哀愁をステージに置いてみせると、情感と、ピアノの軽やかな旋律、青と緑に点滅するライト、そして吹奏楽団の力強さで激情を表現。二面性を見せる「SPIRIT」を聴かせてくれた。続いて、昼公演ではビブラフォンやフルート、チェロ、コーラスが光った「Swan」だったところに「ワイルドローズ」を。夜公演らしく、「泣きたくなるようなKissをしよう」で見せる情念や、歌声に感じる圧など、May'nの大人な表現力に聴き入ってしまう。
May'nが呼吸を整え、大きく息を吸うと「Follow Your Fantasy」が旅立つ。こちらも多面性を楽しめる楽曲だが、オーケストラによって大陸感、大河感が濃くなったと感じさせる。Bメロ前では手を強く握り、力を込めるMay'n。「神話の先へ!」で歌声を弾けさせるとSAK.と歌声のポゼッションを渡し合っていく。リターンを受けたMay'nが力強い歌声を響かせ、管楽器と打楽器も交互にパートを打ち合っていく。最後まで高らかに歌い上げ、力強い立ち姿と表情を見せるMay'nが、拍手喝采を受けると笑顔を返す。ここでとったMCでも開口一番、「だから1日2回公演だって(笑)」と「Follow Your Fantasy」という楽曲を歌うエナジーの大きさについて触れながら、「夜公演は昼と違うキラキラがあって、すごく楽しく歌わせてもらっています」ともMay'nは教えてくれた。そして、20周年の歩みを感じさせながらもリアレンジ・リレコーディングによって次なるステージも見せたベストアルバム『TWENTY//NEXT』に言及し、その収録曲の「Ready Go!」になだれ込む。ハープ、フルート、弦から始まるも一転、吹奏楽的なアレンジへと変化し、跳ねたリズムに愛くるしい歌声でシンフォニックに始まったコンサートがたちまちMay'n色に染まっていく。
May'nの歌声に対してSAK.は「華のある」と称したことがあるが、まさにMay'nの歌声はシンフォニックさの中でも喜びを咲かせる。コンサートの前半はシンフォニーという大樹に寄り添うかの如くMay'nであり、May'nも各楽器もコーラスもステージ上で持ち味を見せる音を放っていた。May'nの、華もあれば幼さも感じられる歌声がこれほどまでにシンフォニーと調和を見せるかと驚き、と同時に表現力と歌唱力に感嘆した前半は、交響楽団の良さを知らしめた時間でも合った。だが後半は、May'nの歌声がコンサートの先頭を歩き始める。今まで歩んできた楽曲と培った絆を感じさせながら、May'nらしく、音楽空間を楽しみで満たしていく。
「楽しんでるかな?」と見回るように笑顔で四方に顔を向けるMay'n。ステージ中央から一歩も動かず、は同じだが、手振りで歌に情熱を込めた前半と違い、腰から揺れてリズムに乗る姿を見せるMay'n。最後には立てた親指を客席に力強く突きつけるポーズを決めた。次には、緊張感ありつつもサビで開放感広がる「Scarlet Ballet」につなげ、大嵜がピアノを弾きながら四つ打ちに体を揺らす中、May'nは時に前方を鋭く見つめ、右へ顔を振り、そして握り拳を作ってみせた。曲のラストにはマレットを手にし、ステージ上に登場してきた銅鑼を一撃、力強い音を鳴り響かせた後で自信に満ちた顔で仁王立ちするMay'n。それは見慣れた“部長”、May'nの姿だった。
ライトが客席を流れていくとハーブとピアノによるイントロが。公演のラストソングとの告知もなく、「the SEA has dreams」の歌が流れ始める。タンバリンがリズムを刻むなど、徐々に曲が軽やかに進んでいくとDメロを越えたところの間奏でMay'nは、客席に対して「もっともっと一緒に歌いたいなって思って今日はみんなに歌詞カードを配っています」と言葉をかける。客席の人々はすでに、ラスサビの歌詞とコーラスと、大きく「SHE / HE has カンペ」と文字が書かれたカードを手にしている。ここで設けられたのは、ラスサビをみんなで合唱するための練習時間。会場の照明が明るくなり、客席の様子が一層わかるように。大嵜のピアノを伴奏に一度目から難なく歌って見せる観客たち。するとMay'nは「もっと聴きたいな」と自身も声を重ね、練習を引っ張る。さらに「大きな声で最後、もう一回だけ練習するよ」と3回目の練習を終えるとフィルハーモニーが覆いかぶさり、コーラスも混じり、クライマックスに向かって曲が進んでいく。そして待望のラスサビで聴衆が練習以上の成果をホールに響かせたとき、誰もが音楽によって会場が結びつくのを感じた。
「つなぐmusic 身をゆだね キラキラ反射して ゆれるheartbeat 手のひらを かかげて いつまでも the SEA has dreams」
マイクを高々と揚げて声を要求したあと、客席の歌声に応えるような掛け合いを楽しむMay'n。右手で、左手で、と弾きながらワイパーを促す大嵜。それに合わせて大きく手を振る客席。曲の終わりには、フィルハーモニーの面々を含めたステージ上のみんなが手を掲げてフィニッシュ。感動的なシーンに向かって観客は力いっぱいの拍手を浴びせかける。
「最高の音楽をありがとうございました!」
そう告げたMay'n、続いて大嵜が舞台を離れる。ただ、それ以外の出演者はステージに残り、沸き起こるアンコールの拍手を聴いていた。暗い中、ステージ中央では金管楽器奏者も客席を煽り、鳴り止まぬ拍手が続いていく。すると大嵜とMay'nが再び登場し、ピアノの前へ、ステージ中央へと進んでいく。ピアノがスタートさせたアンコール1曲目は「Destiny」。シンフォニックな中にもソウルフルなMay'nに豊かなコーラスワーク、スイング感のある演奏で楽曲が進んでいく。歌い終えるとMay'nはまず、「Destiny」の曲終わりにフライングで拍手してしまった一部の客を鑑みて、「原曲はあそこで終わってたもんね」と声をかける優しさを見せる。その後、今回のコンサートタイトル「TWENTY Around for You」には「アラフォー」が裏テーマとして隠されており、公演日直後の10月21日には36歳を迎えるとあって、「歳を重ねる喜びを感じられるコンサートであったら」という想いで選曲し、歌っていると話す。また、若い頃は背伸びをして歌った楽曲を昔よりも歌詞を大切にしながら届けられるという喜び、「音楽と共に歳を重ねていくこと」の幸せ、をこの日のコンサートを通じて教えてもらえているとも話す。そして、あらためての「みなさん、ありがとうございました」のあと、「これからもたくさんの夢をみんなと、探して、見つけて、叶えていきたい」という決意と共に、最後の曲として「Sing Of Dreams」を紹介する。
シンプルで名曲の香りを感じさせるイントロは原曲よりも長くとられ、大嵜のピアノとハープを伴ってMay'nが歌を歩み始めさせ、「夢はいくつ叶った?」「夢を歌うよ」とにこやかに歌っていく。2番からはフィルハーモニーが加わり、大きく育つ夢を描くように堂々たる演奏を披露していく。だが終焉が近づくと演奏は凪いでいき、May'nの歌声も優しさを増していく。最後は原曲よりもロングトーンで、目の前の人たちに手渡すように時間をとって「夢に歌うよ」を聴かせる。
客席から起こるスタンディングオベーションを、満面の笑顔で見つめるMay'nは、かけがえのない昼夜を共にした、グランドフィルハーモニック東京、コンサートマスター:執行恒宏、パーカッション:海老原諒、コーラス:SAK.、音楽監督・ピアニスト:大嵜慶子、「そして、最高にキラキラしたコーラスは部員(=May'nファン)のみんなー」と紹介していく。そして最後には「ボーカルは、May'nでした」と締めくくった。
9年前のシンフォニックコンサートは大嵜と初共演した場であり、その後は自身のソロライブで幾度も共にステージを作ってきた。一方、May'nとしてはアコースティックでのライブで積み重ねてきた経験もあり、今回のシンフォニックコンサートはその先にあるものを形として見せる場でもあったが、実際、素晴らしい演奏に覆われながら自身の想いを歌声に乗せ、音楽として人々に届けるという型を見事に作り上げていた。May'nの口から知らされたように、この冬は、これで休眠となるXmasコンサート、20周年を締めくくるライブツアー「THE BEST of May’n」が待ち構えている。今のMay'nはただの成長でも進化でもなく、自身の中にある蓄積を温故知新するように、歌声に昇華させるシンガーになりつつある。去る10月25日には椎名慶治15周年コンサートに参加し、ユニット「Astronauts」としては12年ぶりとなるステージも展開したが、生み出してきた音楽をどのように再表現し、再構築するのか、そして新しい音楽世界を繰り出してくれるのか、楽しみでしかない。これからは1ステージ、1ステージが集大成となるMay'n、そう思わせるシンフォニックコンサートだった。
(Photo by SUGI/Text by 清水耕司)








