玉置浩二が故郷楽団と共に日本全国を巡る音楽の旅に出たのは2015年のこと。翌年以降も様々なツアータイトルを掲げて、各地に歌を贈り届けて来た。10周年を迎えた今年も8月から11月にかけて、全24カ所34公演の全国ホールツアーが組まれた。新型コロナウイルス罹患のため4公演が延期となり年明けに振替が決定するなど、予期せぬ困難もあったが、11月12日に聖地・東京ガーデンシアターで一旦の区切りとなるツアーファイナルを迎えた。
【写真】1月1日(木・祝)WOWOWで独占放送・配信される玉置浩二(4枚)
定刻を過ぎると場内が暗転し、総勢15名の故郷楽団がポジションにつく。1曲目はインスト曲「あこがれ」だ。ストリングスが織り成す音の連なりが実に厳かだ。ヴァイオリン:吉田宇宙、名倉主、奥田瑛生、大槻桃斗。ヴィオラ:舘泉礼一、大辻ひろの。チェロ:村中俊之、飯島奏人。豪華な布陣が奏でる高雅な諧調が祝祭の始まりを告げる。そして、玉置浩二が上手から登場する。
舞台中央に置かれていた青いバスカリーノを手にし、歌い始めたのは「青いなす畑」だ。大切な家、花咲くふるさと。柔らかな歌声が、聴衆を記憶の中にある故郷へと導いていく。8人の弦楽器隊と門田JAW晃介と武嶋聡のサクソフォーンによる前奏に続いたのは、アップテンポな「からっぽの心で」だ。悩んで疲れても、歩き続けて空を見上げようというメッセージを歌う。慈しむような眼差しで聴き手ひとりひとりを見つめるその表情はとても優しい。「それ以外に何がある」では、彼の音楽の本質的なテーマである大切なものは何かという問いかけを投げ掛ける。そして、祈りを捧げるかのように、言葉にならない思いをフェイクに注ぐ。歌い終えて深く頷くその笑顔がとても素敵だった。
パーカッションの中北裕子がアフリカを起源としたウォータードラムを駆使し民族音楽の味付けも付加された「太陽さん」では、スケールの大きなバンドアンサンブルが高揚をかき立てていく。エンディングで玉置が爪弾くコクのあるエレキギターも味わい深かった。ベースの千ヶ崎学とドラムスの松原マツキチ寛が刻むエイトビートのロックンロールに乗せてガンバレと繰り返す「古今東西」では、その熱量に鼓舞された観衆が総立ちとなって呼応する。
一転してジャジーな「最高でしょ?」ではミラーボールが登場し、黒いロングコートとブルーのストールをまとい艶やかに歌う彼の姿を浮かび上がらせる。ファンクに転調しつつ描かれる官能的な世界、そして振れ幅の大きい曲調を見事に演奏し切る故郷楽団の技量にも痺れた。前半最後は愛する人のぬくもりを求めるピュアなラブソング「コール」だった。囁くような歌い出しから震えるような叫び、そして万感を込めたラストの絶唱。圧巻としか言いようがない名演だった。
「青いなす畑」のインストゥルメンタルヴァージョンで始まった後半。バンドマスターでもあるトオミヨウが弾くキーボードの旋律に誘(いざな)われるように玉置が戻って来る。歌われたのは星をモチーフに大きな視点で描かれたラブソング「嘲笑」。かつてビートたけしに提供した楽曲だ。門田JAW晃介と武嶋聡が奏するフルートの音色もどこまでもあたたかだ。「次は君が幸せになる番だよ」と告げるかのようなチャイムから紡がれた「しあわせのランプ」も素晴らしかった。日々の暮らしにぬくもりを与えてくれる歌に感じ入った。続く「サーチライト」では、瑞々しいフレーズに乗せて全身全霊を歌に込める。至高のバラード三連発に、大きな感動が広い会場を包んだ。
ここからは極上のグルーヴに酔いしれる時間だ。ソリッドでダンサブルかつ中毒性の高いリフレインが続く「じれったい」では、玉置が「もっとガーデンシアターを知りたい!」と叫んで客席を煽る。秋山浩徳のハードロックテイストな激しいギターソロをフィーチャーした「好きさ」では、熱狂がさらに激しくなる。過熱する演奏と歓声が相まって、大きな高揚が生まれていく。さながらジャンルを越えた音楽の饗宴だ。




