約二年半ぶりの再始動、更なる高みを目指して舞い上がる、劇団朱雀の新作公演『祭宴』が2023年5月19日に初日を迎える東京公演を皮切りに幕を開ける。その前日に行われた、本番さながらの公開ゲネプロを観た。
東京公演の会場となったかめありリリオホールのステージ上方には、劇団の看板や提灯の他に今回のタイトルを象徴するように御祭禮の提灯も掲げられている。
今回も三部構成の公演となり、まず幕開けの一部は二代目座長・早乙女太一による女形の舞をメインにした舞踊ショー。太一の女形と言えば……という彼の代表曲とも言えそうな『胡蝶之夢』を始め、馴染みのある曲だけでなく和太鼓との共演・実演など新鮮な取り組みもあり。また、曲間のわずかな時間でガラリといでたちが変わって涼やかに登場することに「一体どうやって、この短時間で?」と感心していると、まさに舞台上でその早替えの手順がチラリと目撃できる場面があったりもして、衣裳スタッフたちの手際の良さ、曲のリズムやきっかけに合わせながら着替える仕草も美しい本人の所作に、目の前でどんどん仕上がっていくスピード感も相俟って「お見事!」と言うほかない良き見世物ともなっていた。そうやって舞台上でボリュームあるゴージャスな衣裳を着込むと、そこから始まるのは艶やかな花魁道中。その妖しさ、圧倒的な美しさには会場のあちこちからため息が漏れるばかりだった。
舞台写真【撮影者:𣘺本雅司】 画像 2/3
休憩を挟んだ二部は日替わり芝居。九本の演目が日替わりで上演されることになっているが、ゲネプロで上演されたのは劇団☆新感線の座付き作家である中島かずきが今回の公演のために書き下ろした新作『桜吹雪八百八町』。これはつまり、太一版遠山の金さんだ! 物語は、両国橋のたもとで咲き誇る一本桜の古木の下で展開する。太一演じる、遊び人の金さんの周囲で起こる不穏な事件。その真相を目撃してしまう桜の精を早乙女友貴が演じ、この二人が絡む場面がまたイキイキとチャーミングで作家の二人への愛、劇団への愛をも感じる描きっぷり。聴き馴染みのあるテーマ曲が流れるほか、金さん以外にもさまざまなモチーフへのオマージュを匂わせつつ、ダイナミックな殺陣やお白洲での名裁きの場面、そしていかにも中島かずき節と言える痛快な決め台詞もバシバシ出て来る、見せ場満載の人情話かつお江戸ファンタジーとなっている。
二度目の休憩(ちなみにこのタイミングで二代目座長や劇団員によるお馴染みの物販コーナーがあるので、購入をお考えの方はここでご準備を!)が終わると、三部は出演者全員による舞踊ショー。太一の「待たしたな!」には「待ってたよ!」でコール&レスポンスができ、全力を尽くして踊りまくる騒ぎ屋メンバーたちとの一体感を味わいつつ、一曲目から一気にお祭り騒ぎの時間帯に突入。彼らの溢れ出るパワーを浴び、ギラギラ鮮やかな照明に低音が身体の芯まで響く爆音の効果も覿面で、客席に座って観ているだけでこちらの心がみるみる元気になっていくのを実感する。当然ながらここでも早乙女兄弟の高速超絶技巧の殺陣と身体能力は、その持てるポテンシャルを惜しみなく披露してくれる。ほかにもコミカルなパートあり、セクシー度アップしたダンスもありと盛りだくさんで、日本文化を組み込んだエンターテインメントの可能性が詰まりに詰まった宝箱のような時間となっていた。もちろん劇団としての集団の力、楽しさも圧巻の極み。初代座長の父・葵陽之介の貫禄、母・鈴花奈々の柔らかな存在感、早乙女家以外では唯一の劇団員・岩崎祐也のアツい全力加減、レギュラー感が半端ないゲスト・富岡晃一郎は笑いもMCも頼れるポジションを務め、今回二代目座長と共にダンスの振付を担った関根アヤノの貢献度も大きく感じた。
舞台写真【撮影者:𣘺本雅司】 画像 3/3
とにもかくにも『祭宴』とのタイトル通り、祝祭感に満ちた、この集団でしか表現できない、まさに見どころしかないステージとなっていることは間違いない。二代目座長・早乙女太一の覚悟のほど、もてなしの心づくしがしっかりと伝わってくる公演、どうか、どうかお見逃しなきように。
