2018.07.21 公開
なるほど、人類を宇宙へと届けるプロセスに、パッケージをリスナーへと届ける(=“レコード発売”)それを重ね合わせた映像は、彼女らしいユーモアによる所信表明“演説”もとい“演出”か。無論、その所信とは音楽への飽くなき情熱と弛まぬ挑戦であり、パッケージへの手間暇を惜しまぬ真摯な姿勢である。
だが初期の代表曲である「ギブス」などを経て「JL005便で」が演奏されると、突如スクリーンに「椎名林檎と彼奴等の居る真空地帯(AIRPOCKET)」の文字が映し出される。そう、ここで今回の真のツアータイトルが明かされたのだ。つまり“レコ発”さえもがトラップで、ここまでの時間は壮大かつ贅沢なアバンタイトルだったというわけだ。
では“真空地帯”とは何を指すのか? 椎名はここから更なる攻勢でそれを示していく。彼女は初期の楽曲群と、石川さゆりやSMAPらに提供した『逆輸入〜航空局〜』収録のセルフカバーを交互に演奏して、観客の思考を撹乱していく。
なかでも圧巻だったのは、彼女がランジェリー姿で、床に倒れ、髪を振り乱し、身体をくねらせながら歌いのたうちまわる一連のパフォーマンスだ。見てはいけない女の情念が曝け出されたかの如き愁嘆場は、固唾を呑むほどの迫力だ。
女性なら誰しも憶えのある過去の苦い経験。蓋をしたくなるような劣情。椎名はそれらを観客 ― 特に女性 ― 一人一人の記憶に成り代わり、演じるように歌い上げる。
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