「もともと、人前に立ったり、何か話したり、伝えたりするのが苦手な人間なので、自分は音楽が向いてないんじゃないかと思う瞬間がこの10年で幾度となくあったんですけど、みんなが変わらず、こうやってライブを見に来てくださって、音楽を続けられていることがとても幸せです」。そう感謝の念が伝えられたオーディエンスがコーラスを重ねた「Wonderland」をはじめ、メッセージが込められた「Only One」やファンクロックチューン「Swamp」から伝わってくる歌声の強くしなやかな響きはファンの存在を糧に、この10年で遂げた成長の証でもある。そして、「はずでした」から「渦」、「Watashi」、「Shade」と続いたメドレーしかり、台湾で撮影されたMVをバックに歌われた「Shade」しかり、ヒップホップやダンスミュージック由来のビートに負けない歌声があるからこそ、そのタフさは聴き手の心を揺さぶるのだろう。
一方、ギターを手にしたiriが内省的な楽曲と正面から向き合った「はじまりの日」、「会いたいわ」は、柔らかさや優しさ、繊細さが感じられるiriのもう一つの側面だ。楽曲や歌詞を通じ、静と動、内と外、光と影を行き来することでリアリズムを増し、その表現に血を通わせてきた楽曲に立ち返り、切なさや懐かしさを改めて実感しつつ、この日のiriはメランコリーやノスタルジーのその先にある未来に向かっていった。ボサノヴァのリズムを敷いた「ナイトグルーヴ」、都会的なハウスチューン「摩天楼」から巧みなドラムが光るリキッドファンク「Run」、華やかに咲いた「STARLIGHT」を経て、高揚感溢れるゴスペルソウル「24-25」で本編を締め括った。
アンコールは、雪の映像と共に思い出のあたたかな余韻が漂うバラード「hug」と世界を肯定的に捉えた瞬間を描いた「Season」。現在の心境を代弁するような2曲を歌ったiriは「まだまだ、10周年アニバーサリーイヤーは続きます。5周年の時は振り返っていこうって感じだったんですけど、今年は自分のなかで再スタートな感じがして。その再スタートを何回も繰り返しているんですけど、そうやってだんだん皮がむけて、ツルンって出られる日まで、みんなが応援してくれる限りがんばろうと思います」と語り、ステージを後にした。
初の武道館公演で自身の活動を総括した2024年を経て、2025年はEP『Seek』、配信楽曲『CUBE』を発表しながら、新たな探究と変化に身を投じたiri。2026年最初のワンマンである今回のライブにおいて、衝動性や躍動感を増したバンドと共に原点回帰を果たしてみせたが、10周年のアニバーサリーイヤーはまだスタート地点に立ったばかり。新たに発表された6月のツアー『iri 10th Anniversay LIVE DoT』のDoTが意味するものも含め、この先の新たな展開に大いに期待したい。


