彼の語りは、やがて人間の時間軸を超え宇宙規模へと広がっていく。「約138億年前に宇宙が誕生し、その瞬間に生まれた物質が形を変え今の僕らを構成している。炭素や酸素、水素といった元素も、空気や水も、やがて人となり、また別の存在へと循環していく。その壮大な循環のなかに、僕らは確かに生きている」と。
「蛇口をひねれば水が出ること、星空が美しいこと、それだけで本当は十分に豊かなのだ」と大木は言う。「そうした『気づき』を共有するために、歌を歌っているのかもしれない」とも。「思想を押しつけたいわけじゃない。ただ自分の信じることを伝え、それに共鳴した人と、少しでも世界を良い方向に見つめ直したいんです」
大木はアルバムタイトル『光学』の由来に触れる。1704年にアイザック・ニュートンが著した『Opticks』──光を学ぶという思想。物質を突き詰めていけば素粒子に行き着き、さらにその先ではエネルギー、すなわち光にたどり着くという考え方だ。「僕らは物質じゃなく、エネルギーとして生きている」。その想いを託して演奏されたのが、ラストナンバー「あらゆるもの」だった。
ディレイをたっぷり含んだギターのアンビエントなイントロから、静と動を激しく行き来するダイナミックなアンサンブルへ。〈君が生まれたそれだけは正しい事なんだよ〉と結ぶフレーズが、このアルバム、そしてこの夜のすべてを静かに肯定していく。アウトロではスクリーンに、関わったスタッフやミュージシャンのクレジットが映画のエンディングのように流れ、光の粒子が再び集約して「光学」の文字を形作る。円環を閉じるように、物語は終わりを迎えた。
アルバム『光学』は、単なる楽曲の集合体ではなく、ひとつの思考であり、ひとつの視座だ。その全貌を途中で切り取ることなく、音と光と時間の流れのなかで体験させる──今回の公演は、大木伸夫の思想を最も純度の高いかたちで提示する試みだったといえよう。ACIDMANが長年追い求めてきたテーマはここで結晶化し、さらに次のフェーズへと踏み出した。そんな確かな手応えを感じる一夜だった。
終演後には、「壇上交流会」が行われた。参加者はステージに上がり、アンプやエフェクターボード、ギターやベースを間近に眺めながら、ステージ左手に並ぶメンバーのもとへ進む。楽器を食い入るように見る人、客席を振り返る人、まっすぐにメンバーへ向かう人──その姿はさまざま。3人は一人ひとりと丁寧に握手を交わし、静かに見送っていた。
【リリース情報】
◆ACIDMAN ニューアルバム「光学」
発売日:2025年10月29日(水)
先行配信開始日:2025年10月27日(月)
初回限定盤 CD+Blu-ray(TYCT-69356 /税込¥7,040)
通常盤 CD only(TYCT-60252 /税込¥3,520)



