2025.11.14 公開
【ライブレポート】甲斐バンドが実に16年振りに凱旋した聖地で刻みつけた新たな伝説。50周年アニバーサリーファイナル「100万$ナイト at 日本武道館」

甲斐バンド(C)三浦麻旅子、西岡浩記、佐藤早苗  画像 1/5

熟練のバンドメンバーを紹介した後、甲斐が感謝の意を表す。「僕たちにとっての50周年でもあるけど、ずっと応援してくれているみんなの50周年でもある」その笑顔は慈しみに満ちていて優しかった。続く「安奈」は、時代を超えて燦然と輝くバラード。甲斐はハイスツールに座り、情感を歌声に注ぐ。「裏切りの街角」は、彼らの存在を一躍世に知らしめたセカンドシングル。一度聴いたら胸に焼き付いて離れない磁力の強さは不変だ。名曲は時代を超えるというが、この夜披露された彼らのスタンダード・ナンバーには熟成した芳醇な味わいがあった。

「黄昏に消えた」は最新アルバム『ノワール・ミッドナイト』の1曲目を飾った楽曲。次につながる新機軸を示した後は、舞台上手に8人の女性コーラス隊も登場した「嵐の季節」へ。勇気と決意を分かち合うシンガロングが武道館に響きわたった。そして、ラストスパートとして怒涛の四連発が放たれる。松藤が叩くドラムスの静かな立ち上がりから徐々に加速度を増していく「氷のくちびる」、デビューのきっかけとなった「ポップコーンをほおばって」、最もハードボイルドな「冷血(コールド・ブラッド)」、甲斐と満場の8000人によるコールアンドレスポンスが木魂した「漂泊者(アウトロー)」。甲斐の放つ言葉もバンドの演奏もアクセルを全開にし、リミッターを完全に振り切っていった。

本編ラストは彼らが日本を代表するロックバンドに上り詰めた国民的アンセム「HERO(ヒーローになる時、それは今)」だ。あの頃と同じように会場全体でひとつになり、拳を突き上げ力の限り叫ぶ。ステージ上と客席の全員が魂の交感をする壮大な光景は、とても尊く美しかった。心身を貫くような残響をしばし味わった後、コンサートはアンコールへ。小林旭のカバー「ダイナマイトが150屯」では、甲斐がマイクスタンドを左足で高く蹴り上げるパフォーマンスを極める。強靭なビートで、さらに高いバイブレーションへと誘(いざな)っていく。

最後は、ボブ・クリアマウンテンとのコラボレーションによるニューヨーク三部作から「観覧車‘82」「ラヴ・マイナス・ゼロ」を続ける。甲斐の日本人離れしたサウンド・クリエイティヴを、極上のバンドアンサンブルが2025年型の音色で彩っていく。至福の時間を満喫しながら、デビューから今日に至るまで甲斐バンドが描いてきた軌跡(奇跡)に思いを馳せた。日本のロック音楽史において、彼らの音楽的実験が果たした役割がいかに大きいか。改めて思い知られた見事な名演だった。

二度目のアンコール、最後の最後はやはり「100万$ナイト」だ。舞台上方から降りて来たミラーボールが眩い輝きを放つ中、すべてを出し切るような凄まじい甲斐の絶唱が武道館を震わせる。対岸の山からのサーチライトの演出が印象深い1980年8月箱根芦ノ湖畔。あるいは、「逝ってしまったジョン・レノンのために」と語ってから歌った同年12月の日本武道館。数々のシーンが脳裏によみがえる魂の熱演で、特別な夜は終了した。それは彼らにとってまた新たな伝説が誕生した瞬間でもあった。

彼らの名曲・代表曲全24曲。渾身のステージで、50周年アニバーサリーを見事に締めくくった甲斐バンド。特筆すべきは、懐かしさ以上に瑞々しさにあふれていたことだ。全国各地のステージに立ち続けることで、鍛え上げられたライブパフォーマンス。随所に新たなアレンジが施され、進化を重ねたサウンド。50周年の集大成であると同時に、最新で最高と呼ぶに相応しい圧巻のコンサートだった。

振り返れば、彼らは変化することを恐れず、試練に立ったその瞬間さえ曝け出してきたバンドだ。そして予想を裏切りながら、常に期待を超える音楽を世に出してきた。過去よりも今この瞬間の刹那を、現在の向こうにまだ見ぬ未来を。それが最前線に立ち続ける彼らの矜持なのだろう。興奮冷めやらぬ中で発表されたのは、12月26日に豊洲PITで開催されるスペシャルライブ「ニュー・ブラッド」だ。彼らは休むことなく、次の挑戦に挑んでいく。それがまた甲斐バンドらしくて素敵だった。

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