2025.11.14 公開
【ライブレポート】甲斐バンドが実に16年振りに凱旋した聖地で刻みつけた新たな伝説。50周年アニバーサリーファイナル「100万$ナイト at 日本武道館」

甲斐バンド(C)三浦麻旅子、西岡浩記、佐藤早苗  画像 1/5

1974年11月にデビューし、昨年デビュー50周年を迎えた甲斐バンド。日本のロックが市民権を得ていなかった時代に活動を始めた彼らは、それまでの慣例や常識に抗いながら無謀とも言える挑戦を続けた。花園ラグビー場、新宿・都有5号地(現・都庁舎建設地)など、前人未踏の地で開催した大規模コンサート。当時世界最高峰の録音スタジオ「The Power Station」で、極限まで音を突き詰めたニューヨーク三部作。甲斐バンドが駆け抜けた日々は、今なお人々の記憶に鮮明に刻まれている。

【写真】16年振りとなる日本武道館公演が開催された甲斐バンド(5枚)


彼らの50周年を飾る集大成として、実に16年振りとなる日本武道館公演が開催された。甲斐バンドの聖地凱旋とあってチケットは完売し、注釈付き指定席が追加発売されるほどの人気となった。11月8日土曜。詰め掛けた大観衆の期待と興奮がほとばしる熱気となって、霜月の肌寒さを吹き飛ばしていく。定刻が過ぎ場内が暗転すると、オープニングSEとしてお馴染みの「The Show Must Go On」(Three Dog Night)が流れる。拍手と大歓声が降り注ぐ中、舞台下手から松藤英男、田中一郎が凄腕のサポートメンバー6人と共に登場する。ミュージシャンがそれぞれのポジションにつき音を出すと、甲斐よしひろがステージ中央後方から勢いよく現れる。いよいよ、特別な夜の始まりだ。

1曲目は甲斐の漂流者の美学が結実したリズム&ブルース「翼あるもの」。伸びのあるヴォーカルは、冒頭から切れ味も抜群だ。続いて、田中のアグレッシヴなギタープレイがフィーチャーされた「三つ数えろ」へ。レイモンド・チャンドラー原作のアメリカ映画にインスパイアされたロックンロールが、すべての倦怠を切り裂いていく。破裂しそうなエモーションを吹き込んだ甲斐のブルース・ハープの響きが、聴衆の胸を突き刺すようだ。間髪入れずにストリート・ロックの名曲「キラー・ストリート」を続けて、都市の野性や乾いた暴力性を描き出す。

一転して、ダンサブルな「フェアリー(完全犯罪)」へ。ニール・ドーフスマンがミックスを手掛けたことでも知られるダンサブルなポップ・ロックだ。続く「シーズン」はメロディメーカー甲斐の真骨頂ともいえるミディアムチューン。メランコリックな描写も実に秀逸だ。ハードなロックサウンドから、洗練された抜け感の強いA.O.R.へ。選曲の流れも素晴らしい。都会の喧騒の中を生きる男女の物語「東京の一夜」では、ブルージーな歌にノスタルジックな回想が綴られていく。

叙情性豊かなブルースが加速し、感傷を振り払うようなコール&レスポンスが爆発したのは「港からやってきた女」だ。続く「カーテン」では、ドアを閉めロックをして秘密へと誘うというフランス映画のワンシーンのような官能的な情景が描写される。そして、見えない涙が心の傷に染み入るようなバラード「BLUE LETTER」へ。男女の機微を描くときの、憂いを帯びた甲斐のウェットな歌声がたまらない。バンドの奏でる音色も次々に表情を変えていき、それぞれの楽曲の世界観を音の重なりで構築していく。

序盤から途切れることのない熱狂的な盛り上がりを受けて、「元気だね、みんな」と笑顔を見せる甲斐。アコースティックギターで弾き語ったのは「テレフォン・ノイローゼ」だ。観衆のハンドクラップと大合唱のボルテージの高さが、甲斐のハートにも火をつける。微笑ましいやりとりに誰もが笑顔になったのは「ビューティフル・エネルギー」。作曲した松藤がメイン・ヴォーカルも担当したポップチューンだ。この夜は甲斐がファースト・ヴァースを、ギターを抱えた松藤がセカンド・ヴァースを歌い、最後は共に声を合わせる。甲斐バンドの絆を示す素敵な風景が繰り広げられた。

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