松任谷由実40枚目のオリジナルアルバム「Wormhole / Yumi AraI」(11月18日発売)の完成を記念し、17日(金)に「109 シネマズプレミアム新宿」にてPREMIUM 試聴会&トークライブが行われた。1部は関係者向け、2部では140名のファンが抽選により招待。なお、2部の試聴会は名古屋(109 シネマズ名古屋)、大阪(109 シネマズ大阪エキスポシティ)でも同時開催され、トークライブの様子が生配信された。
トークライブは、制作プロデューサーの団野健が司会進行を務め、ユーミン、松任谷正隆、ミックスエンジニアのGOH HOTODA、音声合成ソフト「Synthesizer V」(以下V)の開発者であるKanru Hu(カンル・フア)が登壇。
ユーミン本人が試聴会に参加するのは実に16年ぶりとなる。
【写真】40thオリジナルアルバム「Wormhole / Yumi AraI」完成した松任谷由実(3枚)
本作は、時間や時空を超え、多次元世界をつなぐ「Wormhole」がテーマだ。荒井由実時代から現在に至るまでのボーカルトラックをVに学習させ、再構築。さらに現在の歌唱法をデータ化してVに歌わせた第3の声を生み出すことで人間とAIとの共生を実現している。ある意味、ユーミンは被験者の立場とも言えるが、「次の扉を開けようと覚悟を持った」と話し、「キャリアを重ねてきたからこそテクノロジーを得て、今までのエッセンスをすべて注ぎ込むことができた。今の私の最高傑作です」と自信たっぷりに断言した。
松任谷正隆は V の声について、「由実さんの生の歌声を一旦 MIDI データに変換し、それを元に V に歌わせるのでパフォーマンスの源は今の彼女です」と解説した。ただ単に V が学習した音声をそのまま使うということではない。むしろ、ユーミンは千本ノック状態で歌うことになった。V と併走できるよう、これまで以上に地道なヴォイストレーニングを重ね、フィジカルを鍛えた。「ボイトレで肉声の震えを抑え、荒由実時代のノンビブラートに近づけました。V に寄り添うときに、リアルな私の声がエモくないと意味がない。感情的に歌ってもぶれないよう訓練したつもりです」と語った。
AI は作詞や作曲には使っていない。だが、曲作りについては、「自分が歌う前提」から解放されという。「作曲家として自由に曲作りができました。ここまでやってきてデビュー時の初期衝動が戻ってくるとは自分でもすごいことだと思う」と振り返った。作詞については、試しに「岩礁のきらめき」で ChatGPT を使用してみたが、出来上がった歌詞はまったく面白くなかったと話す。「私風ではあるけれど、まったく新鮮味がない。特に日本語には行間があり、音律と一緒になったとき、その隙間に受け手が自分のリアルを重ねることができる。その情報量は膨大です。それを AI は学習できない。人の心を動かせるのは人でしかないと確信しました」と、AI との線引きをする分岐点になったと語った。
最先端デジタルの技術を駆使する一方、日々の暮らしの中ではアナログの手触りで得られる感覚をとても大切にする。毎日、新聞や雑誌に目を通し、時には松任谷に読み聞かせることもあるという。「デジタルではその記事だけに目がいくけれど、新聞は広げるといろいろなものが目に飛び込んできますから。関係のない周り道に『え?』というものがある。とても大事なことです」V の作業は松任谷が行ったが、困難の連続だったという。だが、GOH HOTODA は最初に V によるデモを受け取ったとき、本物に近いと驚いたという。「ただ、聴き続けるとやはり空気感がないと感じてしまう。でも、松任谷さんから修正した V が届き続けると、段々と成長していっているんですね。さらに V と由実さんの生声が合成され、松任谷さんの編曲力によってハーモニーが生み出されると、人間味が出てきて愛着が湧いてくる。V の声か本人の声かということではなく、由実さんの音楽になっていくんです」と振り返った。
Kanru Hu も最初に大量のボーカルトラックでデータベースを作ったとき、「V が作り出す新しい音を、どんな意図を持ち、何のために作っていくかを考えました」と話す。そして、V の声がロボットみたいに聴こえてしまわないか、ドキドキしていたという。「アルバムを聴いて思ったのは、リアルかどうかが問題ではなく、自分が聴いて楽しめるかということ。今回はとても楽しめました」と語った。
今回の試聴会の会場である 109 シネマズプレミア新宿は、坂本龍一が音響監修し日本最高峰の音質の Dolby Atmos を体験できる。GOH HOTODA によるこの会場にアジャストされた Dolby Atmos ミックスにより、ここでしかできない音楽体験ができる貴重な時間となった。これからの音楽の新しい楽しみ方のプレゼンテーションとも言えるだろう。
試聴会は同時に映像でも楽しむことが出来る内容であった。映像本編はすでに公開されている 4 曲の MV に加え、この日のために特別に制作されたリリックビデオ 8 曲をアルバムの曲順に繋げた構成。この映像は「Wormhole / Yumi AraI」初回限定盤の特典映像にWormhole Visual Versionとして収録される。
さらに、アルバム発売を記念して、昨年映画館上映されて好評だった「THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー movie 〜5.1ch/4K〜」の再上映も決定。
