突如上がった会場の熱気をクールダウンするように、サザンオールスターズの「SEA SIDE WOMAN BLUES」を桑田がゆったりと歌い上げると、その余韻を残したまま、次なるシークレットゲストが呼び込まれた。日本のフォークデュオ・BUZZが1972年に発表した楽曲「ケンとメリー〜愛と風のように〜」のイントロに乗せて、なんとMr.Children【桜井和寿】が登場!大歓声と共に会場が驚きどよめく中、そのまま桑田佳祐とのデュエットになだれ込む。桑田と桜井の共演は、2006年のTHE 夢人島 Fes.以来なんと19年ぶり。桑田率いるバンドの演奏でMr.Childrenの名曲「HANABI」を熱唱し、桜井がサザンで大好きな曲と挙げる「慕情」をデュエット。この二人が揃って期待されるのは、桑田佳祐&Mr.Children名義で1995年にリリースされた「奇跡の地球(ほし)」。未だJ-POPシーンで燦然と輝き続ける名曲が、前置きなく19年ぶりに突然披露されるこの瞬間こそ奇跡である。
-->桑田とバンドだけで歌う場面と、シークレットゲストと共に歌う場面が交差していく構成であることが見えてきた中、尊敬する大先輩・加山雄三の「夜空の星」を終え、3組目に登場したシークレットゲストは、桑田の公私の戦友であるサザンオールスターズ【原 由子】。普段はピアノを担当している原だが、元はと言えば学生時代にエリック・クラプトンに憧れてギターを始め、吉田拓郎を敬愛しアコギを片手にジェロニモというフォーク・デュオをやっていた程のフォーク女子。この日はアコースティックギターを肩に下げ、桑田とともに自身のソロ曲「いちょう並木のセレナーデ」、そして2025年現在もCMで起用されており、長く愛され続けている「花咲く旅路」を披露。桑田による日本語詞バージョンで歌ったボブ・ディランの名曲 「風に吹かれて」は、この曲が発表されてから60年以上が経つ今も変わらず混沌を極める今の世界に対して、普遍的なメッセージを訴えかける。プロテストソングとしての側面も持ち合わせるフォークの真髄を見せた。
拍手喝采で原 由子が舞台を後にすると、桑田佳祐が美輪明宏の「ヨイトマケの唄」を歌い始める。自身のライブで度々好んで歌唱する曲だが、一部放送局では放送禁止楽曲とされていた時期もある。労働者を歌うこの曲はまさに大衆歌。会場が感動に包まれ温かいムードになる中、一風変わってロックな演奏が始まる。THE YELLOW MONKEY「太陽が燃えている」だ。イントロに乗せて登場したのは、【吉井和哉】。まさか桑田率いるミュージシャンの演奏で、この曲が聴ける日が来るとは誰も想像していなかっただろう。2024年のサザン最後の夏フェス出演「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA」で、桑田と吉井は同日に出演。サザンの「勝手にシンドバッド」にサプライズ登場したのが初共演となり、1年越しの再会を果たした。吉井和哉のリクエストで、桑田佳祐のソロ曲「東京」を吉井が熱唱。桑田も、大好きな曲と語る吉井和哉ソロ曲「みらいのうた」を逆リクエスト。日本のトップ・アーティスト同士がリスペクトを持って共演する舞台を目撃し、熱いものが込み上げる。
その後、昭和の雰囲気を醸すSEの中、再び桜井和寿が登場し、ザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」を桑田と歌唱。さらにそこに吉井和哉を呼び込み3人で北山修・加藤和彦の名曲「あの素晴しい愛をもう一度」を歌う場面、あいみょんと桑田佳祐で歌う「なごり雪」と、昭和を代表するフォークソングの名曲を令和現在のトップアーティストが歌う時間は、どれもあまりにもエポックな瞬間だ。
そして最後の最後に、まさかの超豪華シークレットゲストが登場する。耳馴染みのあるイントロに乗せて登場したのは、なんと【竹内まりや】。最後の最後にとびきりのゲストが登場し、会場のボルテージは最高潮に。「元気を出して」を歌唱し、続けてザ・ビートルズの「Two Of Us」を桑田とデュエット。さらにはサザンオールスターズの「涙のキッス」では竹内まりやがボーカルをとり、最後の曲では、原 由子までも登場。プライベートでも親交のある桑田と原がレコーディングでコーラスとして参加し、2014年に発表された「静かな伝説(レジェンド)」を、楽曲が生まれて以来初めて3人で歌唱し本編は終了。語り尽くせないほどの極上のひと時が流れていった。
鳴り止まない拍手に応えるように、アンコールが始まると、まさかの桑田佳祐、あいみょん、桜井和寿、竹内まりや、原 由子、吉井和哉(五十音順)の全ゲストが登場!「軽音楽サークルでは、必ずシングアウトをいっしょにする通例になってます。シングアウト!」と、フォークの原点とも言えるママス&パパスの「California Dreaming (夢のカリフォルニア)」を全員で熱唱し、「今日の日はさようなら」を観客も含めて会場全体で合唱。夢のようなひと時は、あっという間に過ぎ、ゲストの5人が舞台を去ると、イベントの発案者である桑田佳祐が自身のソロナンバー「祭りのあと」を披露し、合計29曲、約3時間におよんだ奇跡のイベントの幕を下ろした。
フォーク・ソング(大衆音楽)への愛とリスペクトを込めたイベントとして開催された「九段下フォーク・フェスティバル’25」。その言葉通り、今のシーンで活躍する現役のアーティストたちからの先達への愛、そしてお互いへのリスペクトに溢れた、特別な一夜だった。