もはやギグと称せた熱狂の昼公演に対して、初披露の新曲の多さからか、夜公演はショーケースに近い見せ方に。純白のドレスワンピースに衣装が変わり、披露するは『Re:birthday』リード曲「Minty Smile」から。
前述した「アップルミント」の系譜を辿る持田裕輔ワークスながら、こちらは先ほどまで聴いていた歌声の質感と異なり、何色もの大人っぽさがグラデーションのように雰囲気を帯びている印象。〈ライブハウスだった場所が公園になり〉〈今は駐車場だね〉という歌詞も時間の経過を表していて、実際に内田の歴史になぞらえてのものである。少しだけ感傷的になりながらも、最後は39歳の誕生日から合言葉となった「サンキュー!」で、会場と笑顔を交わすのだった。
「Summer Lasting」「初めて会った日」などが連なる新曲パートのなか、特に光ったのが「fuwari」。内田にとって、ミドルバラードの新境地となったこの曲。またしても「アップルミント」の話となるが、内田の活動を追うなかで、作詞家・中村彼方の紡ぐ言葉に救われなかったファンはいないはず。〈走り抜けた 思い出の中で いつもわたし 微笑んでる/幸せって一度かじったら ずっとずっと味がするね〉という、幸せがなんたるかを改めて教えてくれるサビの歌詞が、ここまでのにぎやかな10周年、そして内田が10年間、走り抜けてきた活動の意味をすべて言い表してくれるかのようだった。
演奏面では、ほか楽曲に比べてシンプルなのに難しく。それでいて難しいのにシンプルに聴こえるのが特徴的。思い出のオルゴールを開くかのように、清らかな主旋律を奏でるキーボード、神聖さすら覚えるカッティングのギターなどのバンド演奏。前述の中村彼方による歌詞。そして、慈愛に満ちた内田の歌声。すべての要素が三位一体となり、光の灯る方に向かって、我々をゆっくりと運んでくれる、浮遊感やノスタルジーを味わわせてくれた。
本編後半に歌唱された新曲「Not Enough」「Veil of Lies」、あるいは10周年テーマソング「にぎやかな心たち」の模様については、昼公演でのパンダ&マイクと同じくニコニコ生放送のアーカイブ配信をご覧いただきたい。「にぎやかな心たち」について少しだけ紹介すると、過去に「リリース当時と比べると、メロディに感じるにぎやか度合いも桁違いになった」と語っていた内田。本当にその言葉通りなのか。あわせて、披露のたびに途中でへばるのがもはや恒例化しているスタミナチャレンジ曲「ヘルプ!!」の行方とともに、ぜひご確認あれ。
ここからは既発曲の話となるため、ライブ終演時に明らかになった新情報について、先に記させていただきたい。なんと、内田のデビュー記念日である11月12日に、自身初のリミックスアルバム『Re:mix - Nigiyaka na 10th Anniversary -』がリリースされることが決定。同作はにぎやかな10周年を締めくくるべく、「アップルミント」をはじめ、アニメタイアップソング「Sign」「Reverb」など、彼女の活動の軌跡を辿るような全11曲のリミックスバージョンを収録。リミキサー陣には、10年の音楽活動を支えてきた作家陣が名を連ねている。
CDは、コロムビアミュージックショップ限定ですでに予約受付を開始しており、リミキサーズノーツや特典ブロマイドも付属。また収録曲「アップルミント - Emo phrase Re:mix by よる。& 俊龍 -」が、リリースに先駆けて配信されているため、こちらもぜひチェックいただきたい。
ライブに話を戻して、本人曰く新曲続きで緊張した本編とは打って変わり、アンコールは思い出の曲でのお祭りに。そのなかで特筆すべきは、ファンが着席のまま鑑賞した「Ordinary」。内田が2016年に患った声帯結節、そして歌が歌えない状況を乗り越えて当たり前の大切さを噛み締める一曲なものの、そうした本来の意味合い以上に、この日は感謝を伝えるメッセージソングとして選曲された印象がある。たとえ会場のどこにいようと。あるいは配信画面の先にいようと。内田と目を合わせて、一対一で対話をしてもらう感覚を覚えたに違いない。
