2025.06.25 公開
演説台からステージに降り立ったのちも「AFTER LIGHT」「I GOT 666」と攻撃性の高いナンバーを矢継ぎ早に投下して、容赦なく場内を煽り立てたHYDEはオーディエンスにそう呼びかけると、続けざまに「DEFEAT」へとなだれ込んだ。艶めいたジャジーな歌い出しから一転、鋭い牙を剥き出しにして聴き手の喉元に食らいつくかのごとき凶暴なこの曲で自らハーフマスクを剥ぎ取ったHYDEは噴き上がる嬌声を一身に浴びる。とりわけハード&ヘヴィに迫った「BLEEDING」ではステージ上手側に置かれた大樽に飛び乗り、さらにはその隣に積まれたスピーカーアンプに足をかけてシャウトを轟かせたかと思えば、「TAKING THEM DOWN」ではステージからグッとフロアに身を乗り出し、彼めがけて続々と押し寄せるクラウドサーファーたちの大群にも怯むことなく、拡声器を手にいっそう扇情的な歌声で迎撃しにかかるのだからたまらない。
【HYDE [INSIDE] LIVE 2025 WORLD TOUR】(C)石川浩章 画像 4/5
昂揚をやさしく宥めるピアノの音色、hico(Key.)による流麗なキーボードソロをインタールードにして会場内のモードを刷新、おごそかな空気が醸し出されるなかで演奏された「永久 -トコシエ-」は熱狂にまみれたこの日のステージにおいて、ひときわ白眉だった。テレビアニメ「鬼滅の刃」柱稽古編のエンディング主題歌としてHYDE × MY FIRST STORY名義でリリースされた楽曲のセルフカバーとなるわけだが、オリジナルにも増して分厚いバンドサウンドはHYDEが希求する世界観を十二分に理解して見事に具現化するこのメンバーだからこそだろう。抜きん出たHYDEのヴォーカリゼーションについてはもはや言うまでもなく、深みを帯びてドラマティックな響きにフロアは陶然と酔いしれた。和のニュアンスをたっぷりと宿したこの曲は世界に照準を合わせた今回のツアーにおいて重要な役割を担うに違いない。唯一無二のジャパニーズヘヴィロック、その本領が海外の各地に鳴り渡る様子を想像するだに心が躍る。
「休憩は終わりです。ここからはもう止まりません。覚悟はできてるか? みんなでひとつになって暴れまくるからな」
「永久 -トコシエ-」の余韻を味わう隙も与えず、不敵に宣言するHYDE。「全員の脳みそが上下するのを見せてくれ!」と叫ぶと「6or9」に突入、「3、2、1」の号令とともに一旦、その場に座らせたオーディエンスにジャンプを決めさせた。そうしてHYDEの宣言通り、ライヴはここから怒涛のごとく駆け抜けていく。リンキン・パーク「Given Up」のカバーで魅せた迫力のロングシャウト、ヘッドバングにクラウドサーフにモッシュとすでになんでもござれ状態で激しく波打つフロアに対峙して「もっとカオスが見たい」とさらに焚きつけては収拾不能の盛り上がりを打ち立てた「SOCIAL VIRUS」、「MIDNIGHT CELEBRATION II」でHYDEはついに上半身裸になると、頭から血糊をかぶってステージを縦横無尽に暴れ倒し、真紅の雫を滴らせた。
【HYDE [INSIDE] LIVE 2025 WORLD TOUR】(C)石川浩章 画像 5/5
天井知らずの勢いで極まる熱。だが、今ツアーの真髄は直後に披露された「LAST SONG」にあったのではなかったか。タイトルそのままに『HYDE [INSIDE]』を締めくくるラストソングにして、今作唯一のバラードだ。寂寞としたピアノの旋律に、寄るべなくうなだれるようにしながらHYDEの唇がか細く歌声を紡ぐ。最初は柔らかく、朗らかですらあるその歌は、歌詞に描かれている主人公の孤独な心情に同期して、徐々に切実な狂気をはらんでゆく。真っ赤なライトに照らされて紙吹雪が舞い散るなか、ステージにひざまずき、血糊に染まった頭を抱えては行き場のない激情を迸らせるHYDEの凄絶な歌唱と渾身のパフォーマンスは、作品タイトルに掲げられた彼のINSIDE(=内側)の、刹那の体現なのかもしれない。床に倒れ込んだHYDEの姿が黒幕に閉ざされ見えなくなっても、オーディエンスはしばし立ち尽くしたまま。続けざまに沸き起こった喝采は、文字通り、割れんばかりに凄まじかった。
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