続く「ミックスナッツ」では、一転して軽快なスウィングビートが繰り出される。TVアニメ『SPY×FAMILY』のオープニングとしても知られるこの曲では、楢﨑誠(Ba/Sax)のランニングベースとサポートパーカッショニストによるコンガ、そして歯切れ良いホーンセクションが絡み合う。曲の中盤では楢﨑がベースを降ろし、ステージ狭しと駆け回りながら軽快な「ダンス」を満面の笑みで披露。オーディエンスのボルテージは上昇する一方だ。
Official髭男dism(C)TAKAHIRO TAKINAMI 画像 4/4
「昨日も最高だったけど、今日は今日でいい日になると確信しながらステージに立っています」と藤原。「ここには友達や家族、恋人と来てくれた人もいれば、きっと一人で来てくれた人もいるよね。でも、『あなた』は一人じゃありません。ヒゲダンがでかい顔をして目の前に立っていますから!」モニターを見上げ、冗談まじりにそう呼びかける。「寒くなってきたら上着を羽織るなり、疲れたら座るなり、みんな自由に楽しんでね。今日はネガティブなものが何ひとつない素晴らしい日にしたい!」
そう言って藤原が、バロック調のピアノをゆっくりと弾き始める。そこヘ、へヴィなリズムが重なる「パラボラ」は、オーセンティックかつヒネリの効いたメロディーがOfficial髭男dismの真骨頂というべき曲。スクリーンには歌詞が投影され、思わず一緒に口ずさむオーディエンス。そして、どこかセピアがかった荒野の映像をバックに披露したのは「Laughter」。スタンドマイクの前に立つ藤原が、語りかけるように一音一音を丁寧に紡いでいく。やがて土砂降りの夜を思わせる映像が次第に朝焼けへと変わり、緑の草が芽吹いて色とりどりの花が一面に咲き乱れると、我々の心も晴れ渡っていくようだ。
空の色がゆっくりと深みを帯びていくなか披露された「イエスタデイ」では、ステージの縁に沿ってずらりと並ぶ噴水が、青い照明をまとって水柱を上げる。水の高さは曲の展開とシンクロするように上下し、そんなロマンティックな演出に客席からはため息のような声が漏れる。また、幻想的なピアノのイントロが導く「Subtitle」では、ステージ全体が凍てついた氷の世界へと変貌。まるでオーロラに照らされた流氷のような、幻想的な映像がオーディエンスの体感温度を下げていく。
そんな会場の空気を一変させたのが「FIRE GROUND」だ。夜が本格的に訪れ始め、スタジアムの上空には再び雨雲の気配がよぎるなか、スクリーンが突然真っ赤に染まり、オーディエンスが腕に付けたリストバンド型ライトも一斉に赤く光り出す。ハードロックとファンクを融合させ、音源よりも長く引き延ばされたイントロにスタジアムの熱気は再び急上昇。そしてついに藤原のボーカルが解き放たれ、同時にステージからいくつもの火焔が吹き上がる。その熱風がスタンドまで届き、気づけばスクリーンには江戸の火事現場をモチーフとした浮世絵風のアートワークが投影されている。
アームを駆使しながら小笹が獣の咆哮のようなソロを繰り広げ、藤原もショルダーキーボードを抱えて参戦。楢﨑も加わり3人でステージに乗り出し激しい「バトル」へと発展すると、ひときわ大きな拍手と大歓声がスタジアムをいっぱいにした。
「ここから『お祭りゾーン』に突入していくわけなんだけど、みんな暑いし、水分補給してほしいわけだ。……てことで、乾杯しましょう。みんな、飲み物出して!」と促す藤原。7万人で「乾杯!」と叫び、そのまま「ブラザーズ」へなだれこむ。再び噴水が勢いよく吹き上がる中、「右! 左! 右! 左!」と振り付けを揃えてスタジアムを一体に。一方、テレビドラマ『コンフィデンスマンJP』の主題歌として知られる「ノーダウト」では、ホーンセクションをフィーチャーしたスカの「裏打ちリズム」がオーディエンスの腰を揺らす。さらに、「Cry Baby」「ホワイトノイズ」と『東京リベンジャーズ』のオープニング主題歌を続け、「さあみなさんラストスパートです!」と藤原が告げて「宿命」へ。ホーンセクションがファンファーレのように鳴り響き、ゴスペルにも通じる高揚感たっぷりのコーラスに導かれ、自然発生的にハンドクラップが鳴り響いた。
