ここでMCを挟んだMay'nは、まずコンサートのスタートとして合言葉である「May'n Xmas!」を会場に集まったファンと一緒に叫ぶ。そして、この日は音楽監督とアコーディオンを担当する桑山が集めたバンドメンバー(滝野郁瑛、芹澤薫樹、足立浩)を紹介していく。実は滝野が自身のファンだと桑山から聞かされていたMay'nは、「リハを通じて一回もまだ好きって言われてない!」と滝野に詰め、「好きです」の言葉を引き出すシーンも。初めてのバンド編成ながら、演奏同様にアットホームな雰囲気を醸し出す。
続いては、桑山による新たなアレンジ、そして「無限大の可能性を感じ」たアコーディオンの表現力の元、May'nは3曲を披露する。May'nによると、クリスマスらしく幸せなラブソングを重ねていくブロックのはずが、歌いながら本人も「あれ? と思った」と話したように、その実は伝えられない想いを綴った楽曲ばかり。「牙と翼」では前傾姿勢で前のめりになりながら、「You」ではサビのロングトーンに合わせて手を大きく前に伸ばし、「Follow Your Fantasy」ではビートの終わりに合わせて手刀を切り、情念を込めながら歌い上げるさまはまるで舞台女優のよう。ただ、次のMCで「音の数が少なくなる分、声をダイレクトにぶつけられる」からこそ「歌詞を一人一人に届けたい」思いでセットリストを組んだとも話したように、May'nの歌声で聴く者が心を震わせられる、そんな時間となったことは間違いなかった。
次のMCでMay'nは、桑山からの提案で「You」は曲途中に3拍子の間奏を差し込まれたが、決して『魔法使いの嫁』らしさをお願いしたわけではないのに『魔法使いの嫁』らしさが増しており、そのアレンジに「天才ですね」と驚きも語っていた。そして、人恋しくなる寒い冬にふさわしい曲として(May'n自身は寒いとジムや温水プールで体を動かして燃焼効果を高めるタイプと話しながらも)、心が温かくなるようなラブソングの「コイトゲ」を贈ると紹介した。
<---->ステージには淡いオレンジ色が八つ灯り、背後にあるえんじ色の幕のドレープに影が落ちる中、May'nの歌声は実に穏やかかつ円熟した魅力も伴い、聴く者の恋しい気持ちを導いていく。間髪入れずにミニアルバム『15Colors -soul tracks-』から「melodies」を。同アルバムは15周年記念企画の『15Colors』シリーズ3枚の中の1枚で、May'nのボーカリストとしての真価を発揮した名盤。あれから5年を経て、May'nはさらに音楽性における進化を遂げたことをその歌声で証明していく。さらには、より大人な女性へと空間を拡大構築していく「恋」。ブレス少なく歌い上げるサビの緊張感、そこに五つの音符を繰り返すアコーディオンとコンガのリズムはシンプルだからこそMay'nの世界へと聴衆を巻き込んでいく。
休憩のMC明けには、ステージの下手を赤く、上手を青く染め上げるライティングの中で「戦乙女の歌」と「Deep Breathing」を。前者はアニメ(『モブから始まる探索英雄譚』第9話)挿入歌ながら「たくさんの人にその日の熱量や感情で届けたい」「クリスマスの夜ににもきっと合う」と思わせる曲であり、そこから後者につなげる流れは「素敵になるのでは」という考えの元に組まれた2曲。今年リリースの楽曲に、10代の頃にレコーディングした曲を新たな解釈で今に昇華させ、2曲を並び立たせた。「Deep Breathing」はまた、暗い中で煌々と一つだけライトが光っていたステージが、歌を進ませるに従って空色に、Dメロでは夕陽のように赤く染まり、そして無音になる瞬間は暗闇の中のMay'nだけを照らすとラスサビではまた空色に戻り、時の流れを感じさせる幻想的な空間が広がっていた。
