「どっかで失敗しないように生きていこうとする俺たちがいて、そのために衝動やパッションみたいなものをずっと(心の奥に)閉じ込めて。だけど上手くいくために生きているわけじゃない。俺たち今夜、みんなの胸の奥に閉じ込めちゃった情熱ってやつを引っ張り出すために東京に帰ってきました。自分の信念を曲げた成功と曲げない失敗、どちらを選ぶ?カッコつけていこうぜ!」と語り、90年代以降、演奏していなかった「サヨナラから始めよう」「すれ違いの純情」そして「LOVE」が披露された。森友のMCを聞いた後、演奏された楽曲は、90年代に聴いた時とは別の印象を受けた。
「シングルスツアーはメンバーの声も聞きたいかな?俺は、ちょっとクールダウンしてくるわ」とステージを去った森友。普段ステージ上でMCをすることのないギターの五味とベースの上野は、この後に演奏される「No.1Girl」の振り付けをコーラスの坪倉と共に会場にレクチャー。
90年代から今もデモテープ作りで使っている森友の私物のラジカセ(通称:キュルキュル)でのレクチャー、こんなこれまでに見ることが出来なかったシーンもシングルスツアーならではの貴重な場面だ。
森友が戻り一気にステージはヒートアップ。そして五味のギターカッティングと観客の拍手で「せつなさを消せやしない」が始まった。観客は大合唱!気持ち良さそうに体を揺らしたり、ペンライトを振ったり思い思いにライブを楽しんでいる。
本編の最後は3rdアルバム「SO BAD」収録の「My life is My way」だ。くも膜下出血で倒れた上野はリハビリ中に何度もこの曲のフレーズをベースで繰り返し弾いた。その印象的なフレーズを弾きながら上野は日本青年館をゆっくり見渡した。復帰した時に掲げた「ライブで全曲ベースを弾く」と目標を、今回のツアーで上野は達成。90年代は日常だった風景が特別ではないことを、奇跡の男・上野博文は改めて感じたに違いない。
そして本編は終了した。
即座のアンコールが会場割れんばかりに鳴り響く。そんな待ち侘びるファンからの声に促されるようにメンバーがステージに姿を見せた。
「いつまでも止まぬ馬鹿馬鹿しい争いが今も、そして予想を超えた悲しい出来事が続いています。俺たちは何もできないかといえば、そんなこともない。俺たち一人一人が届けられるものがある。俺たち自分自身が幸せな人生を送ること、それが全てを包み込む愛となる。今日一緒にできることがある「愛の波紋」。愛の思いや愛の気持ちを大きな声で歌えばいい」と森友は昨今の情勢を嘆きアンサーを提案し、ツアーのハイライトの一つ「愛のために 愛の中で」が始まった。日本全国、この曲では森友はステージから客席に降りて観客の中で「争いのない暮らしの中で時を刻めたなら…」と歌い、触れ合う。森友を取り囲むファンに共通しているのは「笑顔」。この姿を体感するためにT-BOLANと会場を訪れた人々にとっての最初で最後のシングル・ベストツアーが行われたのだろう。
ふと、「世界中の人がこの会場の人たちと同じ気持ちになれたら?お互いを理解し共有し、争いは起こらないのではないか」と脳裏をよぎった。森友はそのことを願い観客の中で歌っている。その思いが波紋となって一人でも多くの人に届くように、祈りを込めて森友は観客の中でこの曲を歌った。森友の言葉が波紋となってこの会場の観客に伝わり、その言葉が観客の家族や友達に伝わる。それが連鎖して世界中で争いがなくなり平和が訪れる日を願い、奇跡が起こることを信じよう。
「タイムリープでいろんなことを語ってきたけど、いつだって今なんだよ。いろんな奴がいる中で俺たち繋がったわけじゃん?今回のツアーはファイナルだけど、まだまだ繋がっていくわけだ。自分の生きたい人生を生きていこうぜ。今日の日を忘れるなよ。俺たちの永遠の夢を送ります」と語り掛け「Heart of Gold」が始まった。90年代、ほとんどのツアーでアンコールの最後を飾ったナンバーだ。サビ部分で森友はファンにマイクを向けた。客電が落ち「夢と勇気があればそれでいい。諦めはしない。感じるまま生きていくよ、胸に輝き抱きしめて」と満員の観客の声が日本青年館に響き渡る。その声を和やかな表情で見つめるメンバー。
「また会おうぜ~」と森友が叫び、約一年に渡るシングル・ベストツアー「T-BOLAN LIVE TOUR 2023-2024 SINGLES〜波紋〜」ツアーファイナルは幕を閉じた。僕たちに大切なメッセージを届けて…。