続いてコロナ禍で外出制限のあった時期に作った宅録音源がベースになっているR&B調の「こんな夜更けは」、夢見心地でほのぼのしたサウンドとアンセミックなサビのメロディのマッチングが印象的な「美しい棘」と、『Velvet Theater』な世界観から生まれた代表曲を続けた。
そして亀本が「GLIM SPANKYのライブですから、ロックなやつ?(中略)やっぱやりてえよなっ。どうでしょうか!」とガツンとくる『SPANKY』なロックを演奏することを示唆し、「Breaking Down Blues」を演奏。
そのキャリア中もっともヘビーなリフとビートが鳴った瞬間、フロアには揺れる頭と突き上がる拳の波が。これまでのパフォーマンスとのコントラストで松尾のエッジーなボーカルもさらに鋭さを増して聞こえてくる。
そして最速の代表曲「怒りをくれよ」で場内のエモーションは爆発。爽快なロックンロールもボトムの低いブルースも、サイケデリックな色彩感も併せ持つ最新曲「Odd Dancer」でフィジカルな盛り上がりがさらに高まり、最後はライブでのビッグアンセム「大人になったら」。
好きなことを突き詰める人たちの背中を押すような曲だけに、松尾と亀本のパーソナルな側面の強い『Velvet Theater』で浴びるとひとしおだ。
アンコールはシンセベースを惜しげもなく鳴らして宇宙を描くようなサイケデリアと、ビッグスケールなダウンビートで20年代のGLIM SPANKYの新機軸を示し、目に見える盛り上がりという意味では速い曲が目立っていたライブにも風穴を開けた「Circle Of Time」。
その魅力は健在。圧倒的に深く強く熱狂的な動きとムードに満ちたフロアは絶景だった。そして最後の最後は30代に入った二人が高校生の頃に作った曲で、2014年にリリースしたメジャーデビューEPのタイトル曲「焦燥」を演奏。
〈Velvet Theater 2023〉(撮影:上飯坂一) 画像 9/9
ヘビーなブルース、ガレージサイケと疾走するオルタナティブロックが感情を絞り出したようなメロディとともにめくるめく展開する、GLIM SPANKYワールドの原石のような曲が、観客のテンションを引っ張り、フロアに激震を起こしてこの日は幕を閉じた。
MCで亀本がフロアに向かって「『Velvet Theater』が初めてのGLIM SPANKYのライブだという人?」と訊くと、予想以上の数の手が上がったことに驚いていたが、それこそが今のGLIM SPANKYなのだと思う。
二人は世界的にロックの存在感が薄まっていく10年代をロックバンドとして生きてきた。そんな時代の流れを見据えながらも決して迎合することなく、なおかつかつて隆盛を誇ったロックにしがみつくこともなく、自らの信じるロックと向き合い、その魅力を拡張させてきた。