2023.04.14 公開
【ライブレポート】Petit Brabanconが「KNOTFEST JAPAN 2023」初出演 鋭利なステージングは深い爪痕を残す

PetitBrabancon (撮影◎河本悠貴/Taka「nekoze photo」)  画像 1/8

観客のハンドクラップを煽ってantzとミヤと高松浩史(Ba/The Novembers)が縦に跳ねた『OBEY』でも、一見ポップな曲調を敢えて汚す不穏なギター、毒々しい声の螺旋が印象的だ。緻密なアンサンブルでありながら、しかしそれを自分達自身でぶっ壊していくような、そんな衝動一発のアクトが連打されていく。語りと叫びが目まぐるしく入れ替わっていく『I kill myself』では、京の声自体がグルーヴの中核を担う。yukihiroの繰り出すビート感だけに限らず、5人それぞれが発するサウンド・怒鳴り、体自体がリズムと歌心になっていて、それこそがこの音楽の心臓にある「気持ち悪い」「居心地が悪い」「世界に俺がいない」という感覚を物語っている。

「もっといけんだろうが!」という京の怒号からなだれ込んだ『Don’t forget』からはさらにバンド全体が直情的に昇っていく。ドラムンベースのリズムを背骨にしたこの楽曲は、Petit Brabanconの凶暴性を「感じさせる」のではなくストレートに叩きつけるものである。目覚めろ、覚醒せよと何度も訴えるようなこの歌を、ステージ前方の鉄箱に登って叫び続ける京。ピットではクラウドサーフとモッシュが巻き起こり、さらなる熱の交感がバンドと観客の間に生まれていく。『Don’t forget』--怒りと苦しみを抱えていること自体がお前はお前である証明なのだと訴え、それを刻みつけて忘れないための歌。この歌は、このバンドは、傷でしか自分の輪郭を認識できない人間を赦し、そして代弁しようとしているのだ。ただの怒りではない。ただの嘆きではない。痛みを共通言語にするしかない人間の、孤独の共同体として叫び続けるのがPetit Brabanconなのである。曲ごとに衝動を解放して体をステージに叩きつけるようになっていく5人の姿からは、そんなことを感じてしょうがない。

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2本のギターとベースがドス黒い螺旋を描く『Pull the trigger』、エキゾチックな同期音からヘヴィなアンサンブルに雪崩れ込んでいく『無秩序は無口と謳う』、そして「狂っちまえ!」という口上が叩きつけられたラストナンバー『疑音』。京がマイクを放り投げ、「ボコッ」という音と共にステージを去っていくPetit Brabanconの5人。最後までステージ上に残ったのは、ミヤのギターの残響だった。最後の最後まで鋭利な音だけを突き刺して深い爪痕を残していく様にもまた、Petit Brabanconの音楽の意味そのものを感じるのだった。

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なお、Petit Brabanconは6月に新たなEPをリリースすることを発表し、7月からは全国6箇所を回るツアー「INDENTED BITE MARK」の開催が決定している。コロナ禍におけるガイドラインと同時に、人間の怯えが引き起こす攻撃と軋轢に心が縛られ続けた数年。そんな長い夜が明けんとしている2023年、徹底して衝動に従順な彼らの音楽はいよいよ本領を発揮するだろう。叫べばいい、もがけばいい、生きればいい。Petit Brabanconはそう歌い続ける。

(文◎矢島大地(MUSICA))

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