セミファイナル第一回戦はRUSYとRAY。RUSYは、早めのBPMの四つ打ちの印象が強いが、今回はキャッチーなミドルテンポで、かつ複雑なリズムで観客を乗らせる。RAYも似たテンポを対抗し、観客にはハンズアップや手拍子を促す。さらに相手への挑発も。「GBB」出場権への思いが伝わってくる。2ラウンド目のRUSYはダブステップのビートから、隙間にも細かい音を詰め込む複合技から緩急もつけて攻め立てた。対してRAYは硬いスネア音を中心にさまざまな技を織り込みつつ、音楽的に成立した非常に高度なプレイで観るものを唖然とさせる。だがそれにひるむことなくステージの中央を一切どかないRUSYが印象的だった。ジャッジはRUSY。AFRAは「ベースが決め手になりました。ベースには(低音で)下から人を乗らせる力あります。(このバトルでは)RUSYの(ベース)音が場内を支配していた」と話していた。
配信などでは伝わりづらいと思うが、会場では高音も低音も1音ごとに凄まじい迫力があり、振動が内臓に響き、思わず身体が突き動かされる瞬間が多々あった。今回の出場者は全員実力者だっただけに、最終的な判断基準は言葉にならない、理屈を凌駕する説得力やディテールだったように感じられる。
続いて、KAJIとMOMIMARUが登場。今回のKAJIはニューメタルを思わせるロックで手数の多い激しいパフォーマンスを披露する。サービス精神も旺盛でスキルのリズム感に合わせて相手のボディにパンチを入れるようなアクションを交えて場内を盛り上げた。対してMOMIMARUは正攻法に自分のスタイルを聞かせる。前回の試合同様、音の配置、構成、組み合わせのセンス、音量、すべてがハイクオリティ。このバトルは完全にスタイルウォーズだった。勝敗を分けるのは非常に細かいディテールになると感じさせた。パフォーマンスが終わると2人は肩を組む。出し切ったのだろう。素晴らしい瞬間だった。審査員のKennyは「こういうバトルは自分にとっても刺激になる」と語った。ジャッジはMOMIMARU。スキルのコンボが繰り出されたバトルだったが、勝因は1音1音のクリーンさだった。またAFRAも「この緊張感の中で自分のスタイルを貫けることがすごい」と2人を大いに讃えた。
BEATCITY JAPAN(※提供写真) 画像 15/19
決勝への緊張感が高まる中、Kenny Urbanのスペシャルショーケース。審査中に着ていた白いロングコートをここで脱ぎ捨て、トレードマークであるマッチョな肉体を見せつける。そこから出てくる音は当然パワフル。だが技は繊細。高い音も低い音もすべてクリア。良い意味で濁りがない。ひとつの口からいろんな音が出る。マイクを喉につけてミュートしたビートを表現したり、パーカッシヴな音を出したり、次にどんなことをしてくるのかワクワクして同時に乗れるグルーヴを出す。吐く音と吸う音が近いのにメリハリがある。同じ人間としてどういう呼吸をしてるのか。やはり「GBB」の優勝者はとんでもない。
そんな「GBB」の出場権をかけた「BEATCITY JAPAN」決勝がスタート。先攻のMOMIMARUはステージの端で座ってRUSYを煽るようにパフォーマンス。珍しい。それほどまでに闘志を燃やしていることが感じられる。だが音は冷静でクリアで緻密。グルーヴがあってブレもない。対するRUSYは「近いよ、先輩」とクールにいなして、最初の5秒は相手の流れを受けるが、あえて切って、今度は歌を披露する。そこにおなじみの耳をつんざく「キュウィンッ」という信号音を混ぜ、インワードリップベースを入れ、そこからMOMIMARUばりに正確な四つ打ちビートをかます。しかも音が重い。さらに歌ネタをキープしつつ、グルーヴの中にさまざまな技を入れる。さすが決勝戦。最後のラウンドでMOMIMARUは「みなさんおまたせしました」と「Limit Break」のルーティンを出す。しかもバトル仕様なのか、よりハードで攻撃的。対するRUSYはこの日一番と言っても過言でないほどの低音を出し、客席から嬉しい悲鳴が上がった。同時に、ビートも刻み、最後はスクラッチ音まで。どちらが勝つかまったくわからない。
審査員による協議のあと、NaPoMが2人の手を握る。勝者はどちらか。上がったのはMOMIMARUの手。その瞬間MOMIMARUは涙を見せ、「ありがとうございます。勝って泣くのは5年ぶり。悔しい涙が多かった。今年が最後の挑戦なので、『GBB』もがんばりたい」とコメントを残した。2人のバトルについてNaPoMは「とにかくレベルの高いバトルだった。なによりビートをダイレクトに感じられたのが素晴らしかった。今日、この場に来られたことを誇りに思います」と感想を残した。
