「朽木の塔」である。この曲は、2004年9月に発売されたムックの4thアルバム『朽木の灯』のラストに置かれている8分越えの大作だ。互いの人生をも背負う運命共同体であるバンドという人生の中で起こった出来事への贖罪を唄うこの曲は、彼らにとっては特別なものなのだ。
しかし、この贖罪を通じて未来へと歩みを進めることを選んだ彼らは、2006年の6月6日にワールドツアーのファイナルとして行った初の武道館公演『MUCC WORLD TOUR "TOUR FINAL「666」"』でこの曲を封印したのである。まさに、その時のライヴの始まりが「朽木の塔」だったのだ。
今回のライヴで真正面からとことん過去と対面するには、この封印を解かずにはいられなかったのだろう。闇の中でさらに深い闇を描き出すがごとく真摯に個々の音に向き合うSATOちとYUKKE。狂ったようにギターをかき鳴らすミヤ、床に跪き力の限りを使って叫ぶ逹瑯。そこに向き合った彼ら4人の想いの深さに息を呑んだ。
封印から11年が過ぎ、そこから積み上げられた歴史とそこからの未来にあった現在のMUCCというバンドの存在の大きさがあるからこそ、この日の1曲目に置かれた「朽木の塔」は想像を超える重さを感じさせられるものであった。そして、それと同時に、この曲がこのとき、目の前で浄化されていく瞬間を見た気がした。
ステージにはMUCCの象徴である梵字が彫刻されたセットが迫り上り、ゆっくりとその頭を上げた。
「20年間の闇を、痛みを、解放しよう!」(逹瑯)
「朽木の塔」終わりで逹瑯が叫ぶと、オーディエンスは待ってましたと言わんばかりの歓声をその叫びに返した。「朽木の塔」という特別な序章からの本編は、彼らが歩んできた歴史の前半9年を鮮やかに蘇らせた。
最近のライヴでも“煽り曲”としてセットリストの中によく用いている「蘭鋳」や「茫然自失」でオーディエンスに火をつける彼ら。会場前列に設けられたスタンディング・エリアでは客席に肩車の壁が生まれ、ダイブやモッシュで埋め尽くされるなど、ライヴハウス宛らの盛り上りとなった。
そして間髪入れずに届けられた、やはりこれも初期の彼らの定番曲である「スイミン」では、黒い衣装に身を包んだ4人が狭い狭い金魚鉢から少し広い水槽に放たれた黒い蘭鋳に見えたほど、手放しで曲と唄を放っていたように感じ、5曲目に届けられた「娼婦」では、ステージ両脇のスクリーンに過去の武道館映像が映し出されていたのも、とても感慨深い時間となった。
