そして。彼らは、何よりも、この日、この場所に響かせたかった楽曲であったに違いない「家路」へと音を繋げたのである。何もかもが自由で、手放しでそのすべてを楽しむことができた古里の中の自分を思い返しながら、都会や社会に揉まれ、いつしか“その頃”のように笑えなくなった自分へと問いかける、誰もが重ねることができる、戻ることの出来ないかけがえの無い時間と現在の自分との間に出来た距離が歌われたこの曲は、彼らが21歳の頃に作った楽曲である。さらにそこから歳を重ね、“無くしたくないものがある”時代から、また一層距離が出来たことで、説得力が増していた気がしてならなかった。
また、水戸という場所で聴けたことも、より情景を鮮明に浮かび上がらせたのだろうと思う。ここから繋がれたMCでは、5月1日に『石岡市ふるさと大使』と、『水戸大使』へのダブル就任したことを改めて報告し、石岡市と水戸市を全力で盛り上げていくことを誓った。
そして、アンコール。彼らのサプライズはまだまだ終ってはいなかった。アンコールではSATOちがヴォーカル、YUKKEがギター、逹瑯がベース、ミヤがドラムというパートチェンジで「世界の終わり」と「蘭鋳」を届け、その後に、MOON CHILDの「ESCAPE」、LUNA SEAの「Dejavu」、16歳の頃に作ったという「NO!?」が届けられた。
「ESCAPE」前に流れたSEも、カヴァー曲の選曲も、顔に“神”のペイントを描いた逹瑯の出で立ちも、20年前の島村楽器 水戸マイム店 Aスタジオ(通称 マイチカ)でやった初ライヴの完全再現であったというから、そのこだわりたるや脱帽である。
そして彼らはこの日のラストを、最新アルバム曲の1曲目の「脈拍」で締めくくった。この曲を飾った今作のヴィジュアルドロップが、誇らしげに4人を見守る中、ミヤのつま弾くギターの音に、逹瑯は“今日まで関わってくれたすべての人達に心から、心から感謝を———。ありがとう”という言葉を乗せた。この日の「脈拍」は、いつも以上に艶やかな鼓動であった。
最近のライヴでは1曲目に置かれていることが多いこの曲をラストに持ってきていた意味。すべてがこの地から始まったことを意味していたように感じたのは、私だけではないはず。そして再び。この日、彼らはこの地から未来へと羽ばたいたのである。
6月20日21日に日本武道館で行われる、『MUCC 20TH-21ST ANNIVERSARY 飛翔への脈拍 ~そして伝説へ~」と題された20周年集大成ライヴでは、いったいどんな未来を魅せてくれることになるのだろう?
(文:武市尚子)
