2021.11.04 公開
シド、Zepp Fukuokaにて全国ツアー完走

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シド、Zepp Fukuokaにて全国ツアー完走写真●田中 紀彦  画像 4/10

マオが再びステージに登場すると、新曲3曲を披露。ゆうや作曲の「13月」は、失ってしまった人への後悔を歌うシリアスなバラードナンバー。サックスの音色とShinjiの泣きのギターフレーズが哀愁を誘う。AOR調の秋ソング「街路樹」はShinji作曲。歌い終わりはマオが「センキュー!」と締めるのだが、この「センキュー!」に対してメンバーから横槍が入る。「もうちょっと優しい方がいいよ」とShinjiが言い始めると、ゆうやも「俺も同じ意見だよ」と同調。これに対して「うすうす気づいてきたけど、バカなんじゃないか?明希以外」とマオが反論すると、「俺ももうちょっとソフトがいいかなと」と、味方してくれると思っていた明希もあっさりShinji側についた。これにより、ソフトな「センキュー!」を練習してみるものの、「俺の中では『センキュー!』はあんまりないんだよね。『ありがとう』でいきたいの、本当は」と、最終的に観客を味方につけたマオ。次回から、この「街路樹」の締めくくりがどうなるのか、引き続き注目したいところだ。そして異国情緒あふれる「慈雨のくちづけ」は明希作曲。ゆうやのダイナミックなドラミングや、明希が多弦ベースで聴かせる間奏、滋味深いマオのヴォーカルも聴きどころだ。ここで本来ならMCが入る予定だったようだが、「このままいっちゃおうか」と、その熱量を逃さないように、「V.I.P」「ドラマ」「夏恋」とアッパーチューンを連打する。明希が華麗にターンを決めたり、マオがピョンピョンと飛び跳ねたり、Shinjiが激しくヘドバンを繰り返したり。そして、その背中をゆうやが笑顔で見つめる。「夏恋」の時にマオが満面の笑顔でやってみせたランニングマンが、全然ランニングマンじゃなかったけれど、楽しそうにステージを闊歩するメンバーの姿を見ながら、コロナ禍の2年間、熱望してきたこの空間が帰ってきたのだと胸が熱くなった。ラストは「プロポーズ」。歌い出しは「あれからもう二年とひと月」。なんとも憎い選曲だ。狂気を孕んだスリリングなアンサンブルとマオのシャウトで永遠の愛の契りを交わし、本編を締めくくった。

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アンコールは、福岡から上京するまでの思いを綴った「星の都」から始まった。ヴォーカリストとしての出発点であるこの福岡で大切に歌い上げた後、マオは「周りが全員違う道の方へ行った時の怖さみたいなものをたくさん経験してきたけど、その経験がきっとこのシドという道に繋がっていたんだなって思います。あの時、怖い方の道、暗い方の道をひたすら歩き続けてよかったなと心から思います」と、歌うことを選んで歩んできた道のりを振り返った。そして、「君たちに俺たちができることはライブでこうやって元気付けること。遠慮せず俺たちに思いっきり頼って、思いっきり俺たちに守られて、最高のライブをして一緒にツアーファイナルを終えましょう。一緒にシドしよう!」と鳴らしたのは「エール」。ステージから見えた景色がどういうものだったのか、客席側からは知り得ないが、「泣くなー!!笑え!!」と、曲中で笑いながらマオが叫んだ。きっと彼らの思いが、真っすぐに観客の胸に響いたのだろう。そんなフロアに向けてマオがもう一つ叫ぶ。「俺の目に最高の景色を焼き付けさせてください。そうじゃないと迷った時にまたポキッと折れちゃいそうです」。守ったり守られたり、こんなふうに素直に弱音も吐ける関係性を羨ましく思った。シドとファンとの深い絆を再確認する。ラストナンバーは「one way」。曲中、マオがShinjiと明希を呼んでゆうやを囲もうとするシーンがあった。しかしギタープレーに没頭中のShinjiはそれに気がつかない。諦めたマオと明希は笑いながらShinjiの横に並び、触れ合う距離で歌い鳴らしていた。彼らはきっとこの先も、こんな感じで笑いながら、未来へと続く一本道を4人で歩んでいくのだろう。

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このツアーを記録するにあたって避けて通れないのは、マオの喉の不調のことだ。ツアーの初日からそうだった。その時から彼は腹を括っていたのかもしれない。或いは自信があったのかもしれない。どんなことがあっても最後まで目の前の人たちを楽しませる、ということに。それでも不甲斐なさにいたたまれなくなったのか、セミファイナルの東京公演では全て歌い終えた直後、両手を合わせた謝罪のポーズのまま、いの一番にステージを降りた。いつも最後に残って愛を叫ぶマオを見てきたファンにとって、それは衝撃の出来事だった。そして迎えたこのファイナル公演。ステージに登場した彼に笑顔が戻っているのを見て正直ホッとした。マオがそういう状態であったにも関わらず、このツアーは間違いなく素晴らしいものだったと声高に言おう。なぜならば、このツアーに参加した人たちは目の当たりにしたからだ。歌うこともシャウトすることも扇動することもMCを楽しむこともメンバーにツッコミを入れることも、どれ一つ手を抜くことなく全力で楽しんでいたマオの姿を。そして、Shinjiのギターが、明希のベースが、ゆうやのドラムが、今まで以上に歌っていたことを。4人が寄り添い合い、支え合い、笑顔を交わしていたことを。そしてファンも一緒にこのステージを盛り上げていたことを。マオは最後のMCで、一緒にシドをしてくれたフロアに向かって感謝の言葉を述べた。「最高のライブをどうもありがとう。こんなに思うように歌えないのに、こんなに楽しそうにしているヴォーカリストは俺だけなんじゃないかなと思いました」。

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