人生でたった一度きりの、心に焼きつく体験———。もちろんすべての時間は繰り返されることはなく、あらゆるライブが一回限りのものであることは間違いないのだけれど、それにしても、今回行われたレッドブルとKing Gnuのコラボレーションによるシークレットライブは本当に特別なものだった。何故ならば会場となったのは海の真ん中に浮かぶ無人島。自由な立ち入りは禁止され遺跡以外は何もない小さな島に、このひと時だけのためにゼロからステージが作られ、ライブが開催されたからだ。過去、この場所で音楽を歌い鳴らしたバンドは存在しない。そんな場所で、2021年6月5日、幸運な60名の観客を前にKing Gnuはライブを行なった。
【写真】シークレットライブを開催したKing Gnu(9枚)
©︎So Hasegawa / Red Bull Content Pool 画像 2/9
「Red Bull Secret Gig」とは、これまで世界6カ国で10回以上にわたり実施されてきた、レッドブルが仕掛けるシークレットライブ・イベントだ。King Gnuとタッグを組んでの日本初開催となった今回は、まず4月末から約1ヶ月にわたって、全国各地に「会場を示すヒント」が隠された拡声器ビジュアルが掲出。見事その謎を解いた正解者の中から抽選で60名だけが現地へと招待され、さらに後日、謎解きの正解者約7万人がオンラインという形でこのライブを目撃した。
会場となったのは東京湾にぽつんと位置する「第二海堡」。観客は2便に分けて、横須賀市・三笠ターミナルからRed Bull Secret Gig仕様の小型フェリーで来島。真夏のような陽射しを受けて真っ青な海を行く、日常を脱する片道30分の航海の時点で既に、この先に待ち受ける体験へのワクワク感が否応なしに高まっていく。第二海堡は現在のような重機もなかった明治中期、国防のために当時の最新技術を集め、四半世紀の時をかけて建造された人口島で、現在の海洋土木技術の礎になっているという歴史的な遺構でもある。360度見渡す限りの海に囲まれたこの島に、なんと1週間前から船で資材や機材を運び込み、ステージを設営。シルバーに鈍く光る骨組みに数え切れないほどのミラーや拡声器が配され、荒地にそびえるその佇まいは、どこかディストピアに建てられた秘密のアジトのような趣きがあった。
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool 画像 3/9
1便目到着から2便目の到着まで、レッドブル・ダンサー、レッドブル・アスリートを含む豪華パフォーマー陣によるブレイクダンス、フリースタイル・フットボール、ダブルダッチのセッション・パフォーマンス「Red Bull Street Jam」が行われた後、すべての観客が上陸を遂げた15:40、いよいよKing Gnuのライブがスタート。周辺に配されたドラム缶に次々に火が灯され、辺り一面に白煙が立ち込めていく中、悠々とステージに上がったメンバー。常田大希がギターをつま弾き、勢喜遊がタイトにリズムを刻み始め、そこに新井和輝が弾き出すぶっとい音が乗った瞬間にグルーヴが完全着火、1曲目の“千両役者”へと突入した。アグレッシブな躍動感をもって歌を放っていく井口理&常田大希のツインボーカル含め、ソリッドかつ爆発力のあるダイナミックな演奏で一気に沸点を超えていく。そのままさらにギアを上げ、“Sorrows”へ。ステージ全体からバシバシ火炎が上がり、黒煙が溢れる。荒野に浮かぶ蜃気楼のように非日常な光景の中で、けれど、その煙の匂い、肌に伝わる熱気、そして何よりもバンドが鳴らす血の通った爆音のすべてが、これがリアルな体験であることを確かに実感させる。
