本当なら2020年のGW時期に行なうはずだった、新宿のライブハウスをサーキットするワンマンツアー「新しい宿」。だが、コロナ禍により何度も延期を繰り返してきた。その公演が、1年強の時を経て、ようやく「新しい宿 2021」と題して開催に漕ぎ着けることが出来た。5月16日・新宿LOFT/5月21日・新宿BLAZE/5月22日・新宿ReNYと、短期間の中、PENICILLINは一気に新宿のライブハウスを駆けめぐった。今回は、3公演とも有観客/配信ライブという形で開催した。
【写真】ライブサーキットを行ったPENICILLIN(3枚)
今回は、3公演のショートサーキットという理由もあり、軸を成すセットリストを作ったうえで、巧みに組み合わせを変えて3公演届けてくれた。一番の特徴が、ここ数年来の公演ではあまりライブ演奏をすることのなかった曲たちを積極的に演目へ組み込んできたこと。
今回のツアーでは、楽曲たちを大まかに4つのブロックに分けて構成。3公演とも、最初のブロックには、「Rosetta」や「秘蜜のデザート」「Quarter Doll」など、触れたとたんに気持ちが熱く奮い立つ激しい曲たちを並べていた。3日目の新宿ReNY公演の1曲目は、じっくりと歌を聞かせる「名もなき未来」を冒頭に持ってきたが、この曲自体が短めのように、激しい演奏を突きつけるためのオープニングテーマ的な役割を担っていたのも特徴的だった。今は何処の公演も同じだが、声出しが禁止であり、前後左右の人たちとの距離感を取らねばならず、思いきり騒ぐのは難しい環境にある。それをわかったうえで、あえて身体がむずむずする激しい曲たちを並べ、最初のブロックから攻めてゆくところが、じらしプレイを得意とするPENICILLINらしい冴えた構成だ。
冒頭を鋭い刃を突きつけた過激さを魅力に据えたブロックとするなら、次のブロックには、激しい中にも雄大さを持った曲たちを並べ、観客たちの身体を大きく揺らし続けていった。このブロックでは「墓標」か「CROSS HEARTS」を始まりに、「FIORE」「ハル」と続く流れを用意。どの曲も久し振りにライブで耳にする曲たちという嬉しさもありつつ、活動初期の名曲「FIORE」と中期に作りあげた「ハル」を組み合わせ、次第に雄大さを増してゆく形を取り、身体に熱を覚えながらも気持ちを心地好く上げてゆく構成を成していたところが嬉しい魅力だった。
3rdブロックは、3公演とも「若きウェルテルの悩み」からスタート。この曲も、ライブで触れるのは久し振りだ。「若きウェルテルの悩み」は、心に染み渡る歌を魅力にした、しっとりと幕を開けるバラード曲。観客たちも、このときはじっくりとHAKUEIの歌声に耳を傾けてゆくのだが、サビ歌へ入るのを合図に楽曲は激しさと速度を増し、一気に攻めゆく表情へと変貌してゆく。まさに、ドラマチックな展開を描き出す楽曲だ。「若きウェルテルの悩み」を合図に、3rdブロックでは「NO CONTROL」「BLACK HOLE」「透明人間パルサー」とハード&ロックンロール色の濃い曲たちを公演ごとに巧みに並べ変え、PENICILLINは最後のブロックに向け、観客たちの騒ぎたい感情を煽り続けていった。
本編最後のブロックには、3公演とも理性のストッパーを外し暴れたくなるパンキッシュな楽曲を三連打していった。初日と2日目は、「Just a kiss on your 3rd eye」「SAMURAI BOY」「SEX」という激しさを増してゆく流れを通して。最終日は「聖・MARIAN HURRICANE」「SAMURAI BOY」「DEATH DANCE」と続く流れを作り、空高く突き抜けるような解放感を持った気持ちにしながらも、そこから一気に急降下。理性を失くし、本能が導くままに騒ぐ曲たちを並べる形を作っていった。本当なら思いきり身体を揺さぶり、拳を突き上げ騒ぎたいのに、制限があるので騒げない。3公演ともこのブロックに共通していたのが、感情は昂り続けるのに発散できないことへのもどかしさを覚えること。こんなにも暴れ曲たちを並べながらも、あえてHAKUEIは「暴れんなよ」「声出すなよ」と毎回声を上げていた。むしろ、それは拷問のようなもの。それをわかったうえで仕掛けてくるところもまた、精神的にサディスティックなPENICILLINらしさ。
