ライヴの前半はオリジナルではメロウな楽曲も、よりグルーヴィでダイナミックにアレンジして演奏されていた。このあたりに変態紳士クラブの強みがある。バンドのコアにいるのは、今はプロデューサーであるが、これまでにキーボーディストとして数々のバンドのメンバーとして研鑽を積んできたGeG。フェスやホールといった大きな会場から、小さなライヴハウスやクラブにいたるまでさまざまな現場での演奏を経験してきた。。当然、会場規模にあった音、セットリストの組み方、パフォーマンスの見せ方に至るまでを熟知している。さすがの経験値に裏打ちされた絶妙なさじ加減で、観客の気持ちをがっちりと掴んだ。
そして中盤では、変態紳士クラブというクルーのアイデンティティを歌う楽曲が披露された。WILYWNKAは「変態紳士クラブのモットーは、モラルとマナーはないけどルールはあるということ。VIGORMANはソロでレゲエをやってて、俺はソロでヒップホップをやってます。変態紳士クラブの根っこにはブラックミュージックがあって、それが俺らの芯になってるんです」と話す。そして「いまいろんなラップが流行ってて、細分化されたいろんなヒップホップがある世の中ですけど、今日はみなさんに“本物のラップ”を持ってきました」と続け、アルバム「PAUSE」から「Return Of The Rap」「2020」をパフォーマンスする。歌の前にしっかりとテーマを説明するので、情報量が多いラップ曲でもしっかりと世界観を感じることができる。細かいがライヴの中ではとても重要なポイントだ。
VIGORMANは「変態紳士クラブの重要なポイントは俺らがただの友達っていうこと。変態紳士クラブを組んでもう3年くらいになるけど、今でも週3〜4は一緒に晩飯を食べてます。俺は友達は狭く深く付き合うのが良いとと思ってるんですよ。次はそんな数少ないホーミーズと一緒に作った曲」と前置きして、アルバム「SOLIPSISM」に収録された「A Few」を歌う。続く「HOME」はライヴの定番曲。GeGのソロアルバム「Mellow Mellow~GeG's PLAYLIST~」からのナンバーだ。「今後どうなっていくとしても、俺らはアホみたいな顔して、アホみたいな曲を、アホみたいに歌っています。仮の自分たちが思った通りの大人になれなかったり、世の中がおかしくなってお前に変える場所がなくなったとしたら、このステージを帰る場所だと思ってください。俺らはいつでもアホみたいな顔してここにおるから」というMCがまさにこの曲のテーマになっている。次の「Vintage From Teenage」では10代前半からの親友であるVIGORMANとWILYWNKAの関係性を歌った。そしてアーバンなハウス曲「湾岸TWILIGHT NIGHT」を終えた頃には、軽く頭痛がするほど場内の空気は薄くなっていた。それほど観客はライヴを楽しんでいた。
しかし、さらに大きな盛り上がりが待っていた。なんと次は本邦初公開の新曲で、しかも春にリリースされる変態紳士クラブの2nd EPのタイトルトラックだと言う。その名は「HERO」。WILYWNKAが「みなさんは変態紳士クラブの部員ですよね? 俺らのライヴは参加型です。俺らがしゃがめって言ったら、みんなしゃがまなあかんし、飛べっていったらみんな飛ばなきゃダメです」といたずらっぽく予告して演奏がスタート。ファンキーな四つ打ちのナンバーに観客はバウンスする。そして間奏で、フロアの客を文字通り全員しゃがませてから一気にジャンプさせる。その瞬間、Studio Coastにドズンという衝撃が起こった。ステージとフロアの一体感がどんどん上がっていく。「Mayday」「大人が言う」など、変態紳士クラブのライヴでは定番の人気曲が繰り出され、クライマックスへと向かっていく。
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そこにスペシャルゲストの唾奇が登場。場内には驚きと喜びの絶叫が響き渡り、フロアは再び大きくうねり出す。曲はWILYWNKAのアルバムに収録された「Take It Easy」。「財布と頭ん中はからっぽ」「生理2日目の女みたいだな」などなど、パンチライン満載のパーティソングだ。変態紳士クラブのメンバーは記憶をなくすくらい酒を飲んで遊ぶという。この曲の客演である唾奇は、変態紳士クラブの沖縄支部長として紹介された。会場がざわついていると「1曲だけで唾奇に帰ってもらうのはちょっともったいないよね……」とVIGORMANが観客に語りかける。そして「今日はGeGもいるし、みんなあの曲が聴きたいよね?」と「Merry Go Round」がスタート。オリジナルでBASIが歌うサビは観客が合唱する。変態紳士クラブのメンバーが普段遊んでいる輪の中に、観客も一緒に入ってしまうような楽しくてあたたかいムードに場内は包まれた。
