シドが11月21日、東京国際フォーラム ホールAにて、アルバム『承認欲求』を携えた全国ホールツアー「SID TOUR 2019 -承認欲求- FINAL」公演を開催。そのステージで、新たなシドのライブを見せる場所として2020年5月9日(土)、10日(日)山梨・河口湖ステラシアターにて「SID LIVE 2020 -Star Forest-」を開催することを発表した。
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一冊の本を読み終えたような、充実した読後感のあるライブだった。
──“あなたをあなたと認めてくれるものは何ですか?”“僕たちは誰ですか?”“あなたは誰ですか?”──
ステージ前面に貼られた大きなスクリーン幕。そこに問いかけのメッセージが打ち出された。これは誰でもない“あなた”へのメッセージなんだと、その後に映し出された様々なSNSの見慣れたアイコンが、ステージと観客一人一人のリアルを繋ぐ。それまで期待に沸いていた場内が、水を打ったように静まり返った。静寂の中、スタートしたのは「承認欲求」。演奏するメンバーはスクリーンの向こう側。一つ幕を隔てた距離感は、この「承認欲求」の歌のようにむき出しの“リアル”を覆ったサウンドと、映し出される歌詞と映像が相まって、まるでドラマかアニメのオープニングを見ているような感覚に陥った。続く「see through」のイントロで幕が開き、ファンキーなグルーヴを奏でるメンバーが姿を見せた。もともとアルバム『承認欲求』はコンセプトアルバムではなかったが、こうしてツアータイトルになり、新旧の楽曲の歌詞とオリジナルの詩という“言葉”をメッセージとして放つことで、コンセプチュアルなステージを作り上げた。「螺旋のユメ」や「MUSIC」といった人気のライブ曲も、このラインナップに入ると、よりメッセージ性が強まった気がする。マオの柔らかで温かみのある歌が響いたのは「2月」「手」「淡い足跡」のミディアムナンバー3曲。「手」ではShinjiが奏でるアイリッシュなサウンドが、その世界観へと引き込んだ。
中盤ではこの日のために作ったという新曲「delete」を披露。明希のダウンピッキングによる重厚なビートが印象的な、スリリングなビートナンバーだ。ゆうやもドラムセットから降り、アコースティックスタイルで聴かせた「ポジティブの魔法」では、左右に並びプレイするメンバーに歌いながら絡んでいくマオの姿に笑いが起こる。音源ではしっとりとした印象のある曲なのに、たちまち愛らしい曲に変わった。こういうライブならではの印象の変化も楽しい。そして、ゆうやのタイトなリズムが焦燥感をかき立てる「Blood Vessel」を皮切りに、「プロポーズ」「park」とアッパーチューンを畳み掛ける。激しいヘドバンで乱れた会場を見て、「今日もすごかったね。風の強い日のゴルフ場みたいだった」とマオ。秀逸なコメントで和ませると、光溢れるミディアムナンバー「その未来へ」へ。メンバー4人と観客との大合唱で、一つの大団円を迎えた。ステージ前にゆっくりスクリーンが降り、本編ラストの「涙雨」。雨の映像と共に歌詞がポツポツと降り落ちる。そこに流れるエモーショナルなサウンドと歌声。なんともドラマティックなラストだった。圧倒的な余韻に身動きできなかったのだろうか。大きな拍手が沸き上がったのは、演奏が終わってメンバーがステージを去り、一瞬の沈黙が流れた後のことだった。
