7人組ダンス&ボーカルユニット・PRIZMAXでメインボーカルを務める森崎ウィンが、5月4日に浅草花劇場で行われたAUN Jクラシック・オーケストラの『響 The Sounds of Japan Tour 2019』に昼夜2公演にわたりゲスト出演。スティーブン・スピルバーグ監督作品『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビューを果たし、俳優としても一躍注目を集めた彼だが、特有の艶やかで温かみのある歌声により和楽器の奥深い音色と貴重なコラボレーションを為して、また一つ新たなポテンシャルを開花させた。
AUN Jクラシック・オーケストラは和太鼓、三味線、箏、尺八、篠笛、鳴り物と、通常一緒には演奏されない和楽器を再編成し、独自の音楽性を追究すべく2008年に結成された8人組ユニット。世界初となったフランス・モン=サン・ミッシェル内公演等、世界遺産でのコンサートも多数行い、2013年のアンコールワット公演からはASEAN全10ヶ国を回っての『ONE ASIAジョイントコンサート』を成功させ、国内でも伊勢神宮や薬師寺などの名所で公演してきた。そんな彼らが石井竜也、大黒摩季、タケカワユキヒデら、デビューからの10年間で縁のあったミュージシャン10組を迎えてのコラボレーションアルバム『響~THE SOUNDS OF JAPAN~』を6月12日にリリース。さらに、世界遺産での公演も含む参加ミュージシャンとのコラボレーションコンサートも8公演予定されており、その初回公演のゲストとして森崎が抜擢されたという形だ。森崎も毎年ミャンマーで開催されている『Japan Myanmar Pwe Taw』に参加した際、彼らと知り合っていた縁でアルバムに参加。終演後には「皆さん優しくて、スンナリ飛び込めました。ただ、ライブに関してはAUN Jの皆さんが作り上げてきた歴史に僕がポンと乗っかる形なので、正直不安が多かったです。何より和楽器で歌うってメチャクチャ難しい!」と語っていたが、実際のステージはそんな不安を露ほども感じさせないものだった。
昼公演の開演時刻となり、まずはAUN Jクラシック・オーケストラの面々が舞台へ。一息に音を鳴らして生音の迫力で圧倒すると、二棹の三味線によるギターバトルならぬ三味線バトルや演者のアクティブな動きも交えて、楚々とした和楽器演奏のイメージを打ち壊してゆく。日本古来の吹奏、弦楽、打楽器によるダイナミックなハーモニーや快活なソロ演奏で観客を幽玄の遊び場へと誘い、クラップで曲を盛り上げる客席参加型曲「万殊の灯りに想いを馳せて」のラストには、遂に森崎ウィンが登場。メンバーとお揃いの西陣織のジャケットと蝶ネクタイを身にまとい、三本締めを先導して曲を締めくくると、太鼓のビートと篠笛のメロディに乗ってPRIZMAXの「カフェオレ」を披露する。ちなみに選曲理由は「和楽器とはイメージの遠い曲だからこそ、“これを和楽器でやったらどうなるんだろう?”って思ったんです。やっぱり音楽って、僕にとっては音を楽しむものだから」とのこと。結果、自身が作詞・曲した純洋風の小粋なナンバーを届ける森崎の艶めかしい歌声と、祭囃子のように跳ねる和楽器の巧妙なコラボレーションは、通常のPRIZMAXライブとは全く異なる雅やかな風情を醸し、生楽器をバックに歌唱する彼の表情もいつにも増してイキイキしたものに。「一緒にステップ!」とメンバーにツーステップを誘って、邦楽公演とは思えない情景を創り出すと、大きな拍手を受けて「ヤバい! 楽しい!」と一言。「メッチャ楽しいっす! やっぱ生音っていいですね」と興奮気味に語り、リハのときからテンションが高かったとAUN Jのメンバーに指摘されたときには、「今日は何か違うんですよね。浅草が僕にパワーくれるんですかね」と応えていた。
続いて「『レディ・プレイヤー1』の長期海外撮影から帰った際に、待ってくれていたファンのために書いた曲」と、これまた森崎自身の作詞・曲による「ただいま」が贈られた。原曲からアコースティックで温かなナンバーだが、そこに篠笛と二面の箏、そして太鼓がなめらかに研ぎ澄まされた生音で命の息吹を吹き込み、森崎はアコースティックギターを爪弾きながら真摯な想いを熱唱。その温もりのある歌声が、4月にオープンしたばかりの真新しい劇場を優しく包み込む。ここで森崎は一旦退場し、アニメ楽曲のカバーも豊富に手掛けるAUN JのラインナップからDAOKO×米津玄師の「打上花火」、さらに絢爛華麗な箏の二重奏に獰猛豪胆な和太鼓ソロが続けば、客席からは拍手の嵐が。そして『ONE ASIA』のテーマ曲を壮大に届けると森崎が再登場して、AUN Jのオリジナル曲に彼が歌詞をつけたアルバム収録曲「Don’t Cry」で本編を締めくくる。和楽器の八重奏が織りなす穏やかにして荘厳な響きのなか、時に囁くように、時にエモーショナルに歌い上げる森崎のボーカルは、聴く者の胸に深く沁みわたり、静かな力で心励ましてゆくが、それもそのはず。この曲の裏には、彼の一方ならぬ想いがあった。