ファンにとっては“従来のバンド編成と今回のアンサンブルでは、どれだけサウンドが変わったのか?”が、非常に興味のあるテーマだろう。これは、筆者の個人的な見解ではあるが、14年リリースのミニアルバム『Somewhere』のバラード「Sakura」は、今回のサウンドイメージが上手く表現されている曲だと思う。ライブでも「Sakura」は披露されたが、色彩豊かな鍵盤の音色、情緒的なストリングスのコントラストが描き出す柔らかで、温かみのあるサウンドは、間違いなく本アンサンブルの核といえるものだった。
Photo by:ヤマダマサヒロ 画像 4/8
冬の寒さが一段と厳しさを増す大寒の始まりが嘘のように、1月20日のライブ会場がある六本木は、日中の最高気温が13度と暖かな陽気だった。会場には満員のオーディエンスが集結し、ビルボードのお洒落なカクテルや絶品な料理を楽しみながら、リラックスしたムードで会話を弾ませていた。
開演時間になり、ステージに葉山、Yui、島津、アコースティックギターを手にしたINORANが登場すると、オーディエンスから一際大きな歓声が起こる。オープニングナンバーに選ばれたのは、『BEAUTIFUL NOW』のタイトル曲「Beautiful Now」だ。この曲は、普段のバンド編成だと開放的で力強いサウンドを宿しているが、今回は葉山のリリカルな鍵盤のハーモニー、Yuiと島津の優雅なストリングスが加わることで、ソフィスティケートされた優しい雰囲気になり、曲の表情がガラリと変わっていた。INORANは、愛用のマーティンD-28をストロークしながら、会場の観客を笑顔で見つめ、ありったけの感情を込めて歌う。
その後、披露された人気曲「千年花」では、INORANがギターを背中に回して、ステージ中央にあるマイクを手に取り、さらに力強くエモーショナルなボーカルを披露し、観客をグッと曲の世界観に引き込んでいく。この日の彼の歌力は圧巻で、表現力、声量、グルーヴの全てにおいて、筆者がそれまでに抱いていたボーカリストとしてのINORANのイメージを軽く超え、実に堂々としたものだった。ライブでボーカリストとしての自分を、ここまでストイックに表現する彼の姿を見たのは、これが初めてかもしれない・・・。
MCで、INORANは「ギターを始めてから30年とか凄い年月が経つけど、その中でバンドを始めて、自分のとなりにはRYUICHIという凄いボーカリストがいた。バンドが終幕した時に、自分で歌うってことで俺のボーカルは始まったんだ。続けることは大切で、あれから20年以上が経った今、こうして素晴らしいミュージシャンが演奏してきたビルボードにボーカリストとして立つ勇気というか、自信が湧きました。そう思うと少し感極まっています」と語る。
セットリストは一新され、現在のINORANの音楽性を語るのに重要な「Beautiful Now」「Sakura」「Shine for me tonight」「Thank you」という、強力なナンバーが前半、中盤、後半の重要な位置を占める。ミディアムテンポとスローテンポの曲を中心にセットリストが組まれているのも、INORANの歌と優美なこのアンサンブルを楽しむのには、ベストなチョイスだと思う。また「I swear」「I’ll be there」「Come closer」という、近年の英語詞とは異なった、日本語によるポジティブな歌詞のメッセージが印象的な楽曲が披露されたが、こういった優しい雰囲気もINORANらしい音楽性であるし、どの曲でも彼らしいオリジナルなメロディセンスがキラリと光る。
