2019.04.23 公開
浜田麻里、即日完売となった26年ぶりの武道館公演が終幕!

Photo by Yoshika Horita  画像 1/4

日本を代表する女性ロック・シンガーとして、多くのアーティストに影響を与えてきた浜田麻里が、去る4月19日にデビュー35周年のアニヴァーサリー・イヤーを締め括る日本武道館公演を行った。彼女がこの場に立つのは約26年ぶりだったが、チケットは即日完売。記念すべき一夜となる舞台への期待感の高さは、そんな状況からも窺える。

 予定どおりに18時半に暗転。ステージ前に設置された大型スクリーンに、この日のために制作されたオープニング映像が流された後、まず聞こえてきたのはISAOのタッピング・プレイからの「Right On」。昨年8月にリリースされ、オリコン・チャートでも初登場6位を記録した最新作『Gracia』に収められたマテリアルで、昨秋からのツアーでは、各地で涙するオーディエンスが多かった楽曲でもある。そしてヘヴィかつダークな「Disruptor」を畳み掛け、『Gracia』の多彩な振り幅を印象づける。
 強靭なバンド・アンサンブルの中で、鍛錬の上に成り立つ超絶なヴォーカルを響かせる浜田麻里。声そのものの圧倒的な説得力は、かつてと変わらないどころか、さらに凄みを増している。歌うことは“使命”である――そう考える彼女の存在感の大きさを、歌詞に綴られた世界観を含めて、改めて実感する瞬間でもあった。

浜田麻里、即日完売となった26年ぶりの武道館公演が終幕!Photo by Yoshika Horita  画像 2/4

 「この日が迎えられて本当によかったです。必ずやエポック・メイキングとなるであろうコンサートです」。そんなMCがなされた後、ファンによる投票で収録曲が決まったベスト盤『Light For The Ages -35th Anniversary Best~Fan's Selection-』において1位と2位だった「Blue Revolution」と「Nostalgia」、自身最大のシングル・ヒット曲でもある「Return to Myself 〜しない、しない、ナツ。」等を、序盤からメドレー的に配したのも巧みな構成だった。いわゆる代表曲であり、場内は必然的に盛り上がるが、これまでの歩みを総括するというよりも、あくまでも『Gracia』に伴うライヴであり、クライマックスはまだ先にあることを予感させる。これこそ自信の表れと言ってもいいだろう。

 「回り道をしなければ、見ることができない景色もある」「苦しいときも悲しいときも、時折覗く青空に救われて、心の温度と湿度と保ってきた」と、自身の活動を言葉に置き換える。この日も口にしていた常に「精進」を続けることの意味。その後に導かれた長年のバンド・メンバーである増崎孝司のアコースティック・ギターと歌のみによる「Promise In The History」と「Canary」のセッションは、そんな彼女の思いがより生々しく伝わってくるものだった。そこで示されたシンガーとしての類稀なポテンシャルへの感嘆と併せ、観客から盛大な拍手が長らく贈られたのも当然だろう。

浜田麻里、即日完売となった26年ぶりの武道館公演が終幕!Photo by Yoshika Horita  画像 3/4
 中盤では劇的な「Mangata」の余韻に浸る中、サプライジングな出来事が起こった。聞こえてきた個性的なベース・フレーズ。何とステージにはMR.BIGのビリー・シーンが登場したのである。レコーディングでも客演してきた世界的プレイヤーにオーディエンスが沸いたのは言うまでもないが、前作『Mission』(2016年)収録の「Sparks」が、BOHとのツイン・ベース・スタイルとなり、これまで以上の凄まじい音像となって表現されたのは、この日のハイライトの一つとなった。

 そしてその熱はさらなる高まりを見せていく。8本の火柱が上がる演出もなされた「Dark Triad」、2ndアルバム『ROMANTIC NIGHT』(1983年)からまさかのレア曲「Jumping High」、原澤秀樹のドラム・ソロをイントロダクションにした「Black Rain」。実演の場ゆえに生まれる疾走感を伴ったメタル・チューンの連発に対し、浜田麻里の圧巻の歌声がアグレッシヴさをより増幅させる。
 世の中にはエンターテインメントとして「楽しむための歌」は多いが、自身の歌はそうではなく、身を削り、魂を絞り出すものなのだと、改めて浜田麻里としての在り方を語り、「Historia」「Orience」が続けて歌われた。特にこの両曲の歌詞を紐解けば、彼女が抱く崇高な思いは伝わってくるはずである。日本、そして世界はどうあって欲しいのか、人間としてどうあるべきなのか。ハイ・トーン・ヴォイスといったテクニカルな側面に注目が集まりやすいシンガーではあるが、メッセンジャーとしての浜田麻里の奥深さがよくわかる場面でもあった。

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 その空気感は本編の最後の「Zero」にも引き継がれた。イントロが始まると同時にステージ後方の幕が開くと、そこには約30名のヴァイオリン、チェロ、コントラバス、ティンパニー、シンバル奏者の姿が。まさかこんな演出まで準備されていたのかと驚かされるオーディエンス。重厚な楽曲がより重厚さを増す、言わば音源の拡大再現といったパフォーマンスだ。センターで高らかに歌い上げる浜田麻里には、神々しさすら感じられた。
 2度のアンコールでは、お馴染みの「Heart and Soul」や昨今の定番曲「Heartbeat Away From You」などで楽しい雰囲気にもなったものの、やはり最後を「Tomorrow」で締め括ったことに意味深さを感じた。「この運命に深く感謝します」「まだやり残したことがある」といったMCもなされたように、華麗なる帰還とも言える26年ぶりの武道館公演も、彼女の歴史の通過点に過ぎず、まだ見ぬ未来へと気持ちが向かっていることを体現する選曲だったに違いない。
 決して順風満帆ではなかった歩み。様々な逆境の中でも、彼女は常に自身の歌と向き合い続けてきた。浜田麻里こそ、日本が誇る至宝である。そんな思いを新たにした十全十美のライヴだった。

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